Zionの花束を 11 (ページ20)

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氷の女王5 ページ20

店を出ると、おお、と声がした。眼鏡がなんとなくそちらに目をやると、見知った顔があった。
「……お前たちとはもう縁を切ったつもりだったが」
それは裏社会に通じていたときに知っていた顔だった。大きな組織の幹部だったと記憶している。
何にせよ、眼鏡は正式に裏から足を洗い、堅気の人間をやっているのだから、追われる理由もないのだが。
男は眼鏡越しの威圧に苦笑しながら説明した。
「違う違うって眼鏡の御仁よ。あんたがいるとは予想外だった。オレはただただここを通りかかっただけだ」
「何か待ち伏せていたようにも見えたが?」
足音はしなかった。つまり、ずっとそこに立っていたことを示す。そう指摘すると、男は参ったなぁ、と頬をぽりぽりと掻いた。
「そんなに大したことじゃあないさ。知った声が聞こえたもんでな。眼鏡の御仁はとうの昔に足を洗ってるから知らなくても仕方ないが……
裏の界隈で今注目を浴びている『氷の女王』って歌姫がいるのさ」
「……氷の女王?」
歌姫ということは、Zionの歌手のことを言っているのだろうが……彼女の姿や雰囲気を思い返しても、「氷」というイメージは湧かない。
「まあ、あんたがいるなら手は出さんさ。ただ小さい組には気をつけるこった」
そう言って男は去っていった。

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