4話 ページ6
更衣を済ませていつものジャージ姿になると、マネ室を後にする。
まだ部員たちはグランドには出てきていない。
もう10分もしたら一気に人が集まるだろう。
それまでに飲み物の用意をしておかないといけない。
唯と一緒に水道に向かっていると、グランドの上の土手から「染谷!」と聞き慣れた声が私を呼んだ。
「倉持…」
呟いた声は自分でも驚くほどに小さかった。消え入りそうだなんてものじゃない。
倉持は階段を軽快な足取りで駆け下りてきて、御幸に元ヤン面とよく揶揄われる顔には可愛らしい笑顔が浮かんでいる。
やめて、いやだ。ききたくない。
なんて言われるか、分かってるんだよ。
しかし私のそんな想いは通じず、倉持は照れたように言った。
「あー…お前にはいろいろ言ってたから言おうと思ってよ。」
いやだ、いやだ。
言わないで、それ以上は、お願いだから。
聞きたくない。
「俺、その…彼女できたからよ」
「…へぇ、良かったじゃん。おめでと」
「え、おい、染谷!」
へらり、と笑うと倉持の肩を数度ポンポンと叩いて水道に向かう。
倉持はまだ何か言いたそうだったけど、無理やり切り上げてしまった。
知らなかった。
倉持、あんな顔するんだ。
はにかむような、照れたような、そんな顔。
あの女の子が倉持の新しい表情を引き出した。
私じゃなくて、あの子が。
倉持と長く一緒にいたのは私のはずなのに。
倉持のこと、私の方が先に好きになったはずなのに。
悔しい。寂しい。悲しい。
「A……」
水道に着くと、唯がぎゅっと私を抱きしめた。
「まだ他の人は来てないし、倉持にも見えないから、泣いていいんだよ」
唯の優しい一言で私の涙腺は決壊した。
ポロポロと溢れ出す涙を止められなかった。
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マリイ - 丹波光一郎の小説も書いて欲しいです 丹波さん好きだけど小説無いんで (2020年8月15日 17時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:マカロニ | 作成日時:2020年7月24日 12時