【◇A】にがくて、にがい。【倉持洋一】 (ページ4)

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2話ページ4

　
　
　
　
　
「倉持がいないからぼっち飯なの？御幸クン」

モソモソと味のしないお弁当を食べ終わり、ちょっとB組行ってくる、と唯とサチに断りを入れてやってきたのは倉持と悪友だと称されることの多い御幸の元だった。

私が話しかけるとスコアブックを開いてパンを食べていた御幸は少し驚いたようにメガネの奥の目を見開いた。

「………知ってんの、いま倉持がどうしてるか」

「まぁね。堂々と教室の前通られたら嫌でも目に入るよ」

いつも倉持がしているのと同じように、御幸の前の席に座ると後ろを向いた。

「その割には、元気じゃん？」

「空元気でも出していかないとメンタル持たないでしょ？」

私が笑うと、御幸も「そりゃそうだ」と言って笑う。

「まあ、まだ倉持がオッケーするとも限らねぇし、あんま気落ちすんなよ」

「え、なに、御幸が素直に人を励ますとか怖いんだけど」

「お前な……せっかく心配してやってんのに」

「冗談だよ」

私がいつも通りの軽口を叩くと御幸は少し安心したように肩を下ろした。

「でもさ、きっと倉持はオッケーするよね」

私が窓の外を見ながら語りかけると、御幸は黙り込んだ。

御幸は良くも悪くも正直だ。無理だと分かっていることに対してフォローしたりしない、現実主義者。

だからその御幸の率直な意見が聞きたかった。

そうでもしないと、私はずっと叶わない夢を見てしまうから。

「だろうな」

パタン、とスコアブックを閉じると御幸は簡潔に言った。

「日頃から彼女ほしいって言ってたし、倉持の好きそうな子だったし」

容赦なく紡がれる御幸の言葉に胸がチクチクと痛む。

でもそれでいい。御幸の言っていることに何一つ間違いはない。

「でも、お前はそれでいいのかよ」

不意に問いかけられて御幸の方を見ると、御幸はいつも通り飄々とした面持ちのまま私に再び訊ねた。

「倉持。あの女の子に取られてもいいのかよ」

「……取られるも何も、倉持は私のものじゃないし」

「ふーん。まあお前がいいならそれでいいけど」

そう言うと御幸は意味深にメガネの奥の目を細めて、少しの間を置くと再び言った。

「その判断がお前にとってより苦しいものにならなかったら良いな？」

「…そうだね」

　
まるで未来を予見したかのような御幸の口ぶりに、私は困ったように笑うしかなかった。