【◇A】にがくて、にがい。【倉持洋一】 (ページ29)

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27話ページ29

大きな出来事はだいたい、立て続けに起こるものであると私は過去の経験上知っている。

「ねぇ、A組の染谷さんだよね？野球部のマネの」

「は、はい」

放課後、練習に向かう道すがら、特に聞き覚えのない声に名前を呼ばれ振り返ると

綺麗に整えられた長い髪をした女の子たちが私を鋭い目つきで見つめていた。

しかし悲しいかな、私はこの子達が何組で何部の誰なのかがまったく分からない。

「えっと……どちら様で？」

「C組で吹部の髙野。もえが最近元気ないんだけど、アンタのせいだよね？」

「私のせい…」

頬を引き攣らせて反芻する私にもどかしさを感じたのか、髙野さんは語気を強めた。

「もえが、倉持が最近一緒にいてもずっと上の空って言ってんの。今日のお昼もアンタと二人でどっか行くの見たって言ってて、愛想尽かされたかもって泣きそうだったんだけど」

「あー……」

ほら、言わんこっちゃないじゃないか。

" 他の女の子とあまり仲良くしないでって内村さんが思うかもしれないから "

数時間前、倉持に放った言葉を思い出した。

まさにその通りになってしまったというわけだ。

髙野さんはどうにも気が強い女の子らしい。

髙野さんの後ろについている二人の女の子もきっと吹部で、内村さんと仲が良いのだろう。

知らないうちに敵(？)が増えていた。

「何、その返事。言ってる意味わかんない？マネージャーだからとか知らないけど、もえが可哀想だから倉持に媚び売るなって言ってるんだけど」

媚を売ってるつもりはないけど。

なんて、さすがにこの状況では言えなかった。

多分、御幸とか亮さんならサラッと言って退けるんだと思うけど。

「っていうか、マネージャーってやっぱ男が目当てなの？倉持とだけじゃなくて御幸くんともよく喋ってるし」

…喋ってるだけでなんで男目当てだと思われなきゃいけないんだ。

言い返したい気持ちは山々だが、口の悪いマネージャーだと思われてしまったら野球部の評判にも関わる。

「ねぇ、なんとか言いなよ。ずっと黙ってないでさ」

悔しさや苛立ちに耐えてぎゅっと拳を握ると、私の背後から飄々とした声がした。

「あのー、そろそろ許してやってくんない？」