【◇A】にがくて、にがい。【倉持洋一】 (ページ28)

今日:1 hit、昨日:4 hit、合計:24,577 hit

26話ページ28

「A、大丈夫だった？！」

「何も嫌なことされなかった？」

倉持に連行された私を唯とサチは相当心配してくれたらしく、教室に戻るなり声をかけてくれた。

「いやいや、それじゃ倉持がいじめっ子みたいな言い方だよ」

私が苦笑いして席につくとサチが食い気味に反応する。

「いじめっ子なんてモンじゃないでしょーが！！」

「と言っても、倉持も悪気がないからあんまり怒れないんだよね」

猫目になるサチを宥めるように、唯が言った。

「悪気と言うか、倉持、何も悪いことしてないしね」

「A…」

「私が勝手に倉持のこと好きになっただけで、その気持ちに必ず倉持が答えなきゃいけないなんてことはないから。

倉持にだって、好きな人や彼女を選ぶ権利があるわけだし。」

そう言いながらお弁当の包みを開く私を見つめながら、唯が口を開いた。

「Aは、それでいいの？」

唯の言葉に思わず手が止まった。

本音を言えば、まったくもって良くない。

華奢で小柄でもなければ色白でもない、一年中野球のことばっかり考えてて女の子らしい趣味の一つもない私だけど、それでも私を見てほしいという欲は今でもある。

諦めると言いつつ、諦めの悪い横恋慕。

前みたいに倉持の側にいたらきっとその気持ちが溢れてしまう。

ただのマネージャーとして見ていた奴に急に好きですなんて言われても困るだろう。

倉持は優しいから、余計に困らせてしまう。

せっかく念願の可愛い彼女ができたんだから、自分のこの気持ちには蓋をしないと。

慣れないなりに彼氏として頑張る倉持を、陰ながら応援しないと。

倉持の幸せをただ願うと言いつつ、まだ恋心を忘れられない矛盾を心に仕舞って、私は唯に答えた。

「うん、良い。倉持が毎日楽しいなら、それで」

　

そう、自分自身に言い聞かせるように。

　

　