10話 ページ12
「染谷先輩!今日ティーバッティング付き合ってもらっても良いですか?」
全体練習の休憩中。ボールの仕分けをしている私の元に小走りでやってきたのは春市くんだった。
「いいけど、なんで私?」
「初めは兄貴に頼んでたんですけど、明日提出の課題が多いみたいでそっち優先したいらしくて。
倉持先輩にも頼んだんですけど、今日は彼女を駅まで送るらしいので」
彼女を駅まで送る。
倉持は寮生だ、他のカップルみたいに部活終わりに一緒に帰ったりはできない。
だから、せめてもの彼女への気遣いだろう。
そしてきっと倉持は、慣れないながらもぎこちなく手を繋いだり、帰り際は気をつけて帰れよだとかそんな言葉をかけるのだろう。
嗚呼、だめだなぁ。
私は倉持の彼女でもなんでもないのに。
ましてや、自分の気持ちも伝えられなかった臆病者なのに。
妬けちゃうなぁ。
告白する勇気もないくせに一丁前に嫉妬だけはする醜い自分を追い払いたくて、いつものへらりとした笑顔を作ると春市くんに頷く。
「うん、分かった。いいよ。場所は屋内練習場じゃなくてここでもいい?」
「はい!ありがとうございます!」
安心したように春市くんは笑うと、同時に休憩が終わって練習に戻って行った。
私はそのまま、一人でボールの仕分けを続ける。
内村さんの前の倉持は、一体どんなことを話すのだろう。
どんなふうに笑うのだろう。
赤くなったり、照れたりするのかな。
いずれはやっぱり、手を繋いで、あの小さな身体を抱きしめて、キスをしたりするのかな。
優しい声で名前を呼んで、愛おしそうに内村さんを見つめるのかな。
考えれば考えるほど、倉持が遠くなっていく気がする。
少し前まで、自主練にも付き合ってたし毎日普通に話してたのにな。
もう、前みたいには戻れないのかもなぁ。
そう思うと寂しい気持ちが多かったけど、
少しだけ楽になった自分がいた。
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マリイ - 丹波光一郎の小説も書いて欲しいです 丹波さん好きだけど小説無いんで (2020年8月15日 17時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:マカロニ | 作成日時:2020年7月24日 12時