Kz退団宣言 ページ23
翌日
彩は、重い足取りで、カフェテリアに向かった。
手には、いつもの事件ノートが握りしめられている。
(これでもう、終わりか…。)
若武のマウンテンバイクが盗まれたことから始まった、このKz活動。
そこから、皆で探偵チームKzを作り上げ、新たに美門もメンバーとして加わり、その活動一つ一つが、彩の宝物になった。
危険なことなど何度もあった。しかし、この退屈しきった日常では味わえないそのドキドキを知った彩にとって、この活動は、いつしか生きがいとなっていた。
それを、今日、失う。
考えただけで、胸の奥がギュッと締まる。息が苦しくなる。
私、生きがいを失うんだ。
今日で何度目かのため息をついて、カフェテリアに入った。
隅の目立たないところに座るメンバーが、目に入る。
彩は、にっこりと、何度も練習した笑顔を作ると、テーブルに近寄った。
「あ、アーヤ。」
小塚が、彩に気付く。
しかし、いつもは自分の隣の席を引き寄せ、彩を座らせてくれるのだが、それをせずに、恥ずかしそうに俯いた。
「ごめんね、私が集合かけたのに、遅れちゃって。」
「いや、別に………。」
若武も、珍しく歯切れが悪い。
皆、昨日の彩の言葉が気になっているのだ。
上杉は少し赤くなってそっぽを向き、黒木は困惑しているように彩を見つめ、美門は居心地が悪そうに椅子に座りなおした。
だれもが、知りたがっていた。昨日の、彩の言葉の意味を。
その雰囲気を察したが、何も言わずに、気が付かないふりをして、席に座る彩。
「で、今日の集合、何のなの?」
美門が、雰囲気を変えるように、明るく言った。
若武も、頷きながら、彩が胸の前で腕を交差させて持つ事件ノートに目をとめた。
「今日、事件じゃないって言ってなかったか?」
「ああ、それはね…」
ノートを両手で持ち直すと、思い切って、若武の前に、差し出すように置く。
眉を顰める若武。
皆も、不思議そうに彩を見つめた。
そんな皆の顔を見回して、微笑む彩。
(皆、ごめん。)
若武の、俺様な発言も、
上杉の、冷たい中の優しい言葉も、
小塚の、ほんわかした笑顔も、
黒木の、スマートな行動も、
美門の、同志的な理解も、
(さよなら………私の仲間。)
思わず、視界が歪んだ。
ギュッと目をつむり、再び開ける。
その瞳には、もはや、ひとかけらの迷いも、悲しみも、苦しみも、なかった。
あるのは、ただ、いつもの笑顔だけ………。
「私……Kz、辞めるから。」
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ひかり(プロフ) - はじめまして。ひかりといいます。前々から何回も読ませてもらっています!表現がとてもきれいで大好きです。私も最近2次創作を書き始めたのですが、そんなにうまくは行きません。尊敬です!! (2020年8月25日 18時) (レス) id: 4da98787a4 (このIDを非表示/違反報告)
nonoka(プロフ) - 読み進めるうちにどんどん涙が溢れて止まりませんでした。完結編も読ませていただきます。 (2018年4月5日 22時) (レス) id: 43665d2016 (このIDを非表示/違反報告)
ミシェル - アーヤ、七鬼君じゃなくて忍って呼んでいますよ? (2018年4月4日 19時) (レス) id: 674d35aaa1 (このIDを非表示/違反報告)
ミシェル - ページ一枚目の若武の漢字が若竹になっていましたよ。あ、若武の武が竹になっていたと言うことです。 (2018年4月4日 19時) (レス) id: 674d35aaa1 (このIDを非表示/違反報告)
Ryu'zyu♭ - すごく悲しくなって、涙が出そうになりました(泣) (2018年2月7日 17時) (レス) id: 049c72f8cd (このIDを非表示/違反報告)
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