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百十話/相手はだあれ ページ10

「ちょ……っと、何処行くつもりですか」


「だーかーら、云ったでしょ?実践だよ実践」


何回も云わせないでよね、といわんばかりの太宰の表情、それにAは眉を寄せた。

ーー太宰治秘伝の技とやらを伝授されたAは太宰に連れられて街中を歩いていた。
もう日付も変わっている真夜中の筈なのに、見渡す限り人、人、人。
酒だったり、女物の香水の甘ったるい匂いが鼻をつく。


「変な事はされなかったけど……」


太宰の部屋では幸い何もされなかったことに胸を撫で下ろす。
しかし良く考えてみると、未成年をこんな真夜中に連れ回すこと自体が変な事なのでは無いだろうか。
非日常に生きているからか、感覚が麻痺しているのかもしれない。


「もう眠いです……」


「もうちょっと頑張って。ほら、後ちょっとで寝れるから」


「本当ですか?……嘘ですよね。太宰さん嘘つきですし。……嘘つき太宰さん」


「眠いからって何でも云って善い訳じゃないからね!」


本人はあまり怒っていないようだが、どうやら口を滑らせすぎたらしい。
そのことに気付いたAは軽く咳払いして太宰の背中についていく。


「手、繋がなくても大丈夫?(はぐ)れるかもしれないよ?」


「大丈夫です」


「いや、でも」


「大丈夫です」


「大丈夫じゃないから云ってるの!」


「ちょ……っ」


子供の駄々こねのように叫んだ太宰に手を掴まれて、Aの躰が固くなる。
その反応に太宰は目を細めて悪戯に笑った。


「Aちゃん、意外と男慣れしてないよね」


「……そういう太宰さんは女慣れしてそうですね」


「まあね〜」


「否定して下さい……」


と、そんな他愛もない会話を続けていた時のことだった。


「ほら、もう少しだよ」


「ええ?……何処ですか?」


辺りを見回すが、眠れそうなところがある訳でもないし、太宰治秘伝技とやらの実践が出来るような場所もない。


「前だよ前」


なんて云い乍ら太宰はAの手を引いて前に進んでいく。そこへーー、


「……太宰さん?」


太宰の足が止まったのを見て、Aは視線を上に向ける。そうして太宰の顔に視線を向ける途中、小さな手に目が止まった。
見れば、小柄なそれは太宰の外套を掴んでいる。


「ーーえ?私?」


大宰がそんな声を出すのを聞き乍ら視線を滑らせれば、その手は和服姿の少女のものだと判った。

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作品ジャンル:アニメ
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作者名:女中 | 作成日時:2022年6月11日 11時

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