百十一話/いつかは永遠の眠りに ページ11
「ーーーー」
綺麗というよりはまだ愛らしさが残る少女だった。
年齢は十四、十五に差し掛かろうかといった容貌で、右腕だけ袖をたくしあげた赤い着物を、黄色い帯で締めている。
少女は、流れる紺色の髪を白花の髪飾りで二つに結い、その頭を白い紐でカチューシャのようにして飾っていた。
「え、と……?」
Aが声を掛けようとしたーー瞬間、
「……見付けた」
少女がそう呟いたのをAは聞いていた。
悪寒が背中を撫ぜるが、逃げようにも太宰の外套が掴まれている為逃げられない。
太宰を置いていけば話は別かもしれないがーー、
「それは……しない」
ならば、どうやってこの状況を打破するのか。
Aがそうして頭を回転させている間に、少女は兎の可愛らしいストラップが付いた携帯電話を開く。
「ーーーー」
その電話から、誰かの声がする。
ーー良く聞き取れないが、一つだけ判ったことがある。それは、声の主が男だということだ。言い換えれば、それしか収穫がなかったということでもある。
「ーーーー」
暫く沈黙が続く。空気が重い。時間が引き伸ばされる感覚を味わい乍ら、しかし変化は唐突だった。
「ーーっ」
それは人間ではなかった。紫の燐光を纏った着物姿の異形。仮面をしたそれが、太宰とAの前に唐突に姿を現す。
それは宙に浮いている為幽霊を思わせたが、周りも異変に気付いてざわめいていることから、選択肢から排除される。
「太宰、さん……」
どうすればいいのか判らない。掌から伝わる体温に縋るしか無かった。恐る恐る視線を向ければ、瞠目する太宰の顔があって。だからーー、
「……これはまずい」
彼がそう呟いたのを聞いて、思い切り手に力を込める。そこでAは微かな、押し殺したような苦鳴を聞いた。
「ーーぁ」
首元に衝撃を受けて世界が歪む。
ぼやけて、そのまま点で埋めつくされて、見えなくなる。
視界が黒で塗りつぶされる感覚にAは倒れた。
普通、立っている状態から倒れたら躰に痛みが走る筈。なのに、何故か痛みは感じなかった。
地面が柔らかくて、下に何かあるのだと頭の何処か冷静な部分で理解する。
ーーそしてそれが、Aと同じく倒れた太宰だということも。
「ーーーー」
その冷静な部分もやがて泥濘に沈んでいく。厭な、厭な感覚だ。唯々、怖くて泣き出しそうになる。
瞳から色々なものが零れてしまいそうになるから、だからAはーー、
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作者名:女中 | 作成日時:2022年6月11日 11時