百四話/嘘と真実 ページ4
「……世話になったな」
そう云うと、警察署の出入口まで見送りにきてくれた杉本はバツの悪そうに目を伏せて、
「それに……何だ。実力、疑って悪かった。難事件があったらまた頼む」
「僕の能力が必要になったら何時でもご用命を。次からは割引価格でいいよ」
あれだけ通俗小説の読みすぎだとか莫迦にされて、どんなに優しい人でも文句の一つや二つ云いたくもなるような箕浦の態度。
しかし、乱歩はそれに構わず相変わらずあけすけに笑っている。
実際、Aは箕浦に少し、ほんの少しだけ腹を立てていた。箕浦は乱歩にだけ謝って、通俗小説の読みすぎだと莫迦にしてきたAにはなんの謝罪もないのだから。
「でも私は何も事件解決に貢献してないし……当たり前か」
これで貢献していれば謝罪の一つや二つ、あっただろうが、Aは特に何もしていないのだ。
何もしないで、文句を云っただけ。
それこそ、その行いは箕浦と同じ、
と、自分の気持ちに一段落つけ、「Aちゃん、行こう」と声を掛けてくれる敦について行こうとするとーー、
「……お前も、莫迦にして悪かった。……中原、だったか。お前のような子供に自分が未熟だと気付かされるなんて、俺もまだまだだな」
「は……い。いえ、大丈夫です……頑張って、下さい」
中原、と呼ばれたことに背筋が凍る。箕浦へと会釈して、足早に自分を待つ敦の元へと向かった。
ぎこちない返答になってしまったが、大丈夫だろうか。
「Aちゃん……中原って?」
箕浦との会話を聞いてきた敦が、案の定そう質問してくる。
その疑念の視線にAは少し目を伏せて、
「お父さんとお母さん、私が小さい頃に離婚して……それで」
「ぁ……あ、そうなんだ。御免ね、そんなこと言わせちゃって」
「ううん、大丈夫。敦君は優しいね」
「優しいなんて、そんな……」
照れくさいのか、自分に自信がないのか、はたまたその両方か、敦は目を伏せて頭を掻く。
ーー嘘は、云っていない。両親が離婚したのは本当である。ーー否、
今思えば、あの頃の自分は全くそのことについて疑問を持っていなかった。
子供とは不思議なものである。
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作者名:女中 | 作成日時:2022年6月11日 11時