百九話/二度目はなくってよ ページ19
突然破壊音が止み、場が静謐で満たされる。
Aの思考もそれに呼応して
幸い話し声が聞こえるには聞こえるので、太宰は死亡していない筈。彼の性格から考えて交渉か何かをしているのだろう。
「早く……」
太宰にご執心なマフィアの構成員、それが今すぐにでも居なくなれば敦を助けに行けるのに。
もどかしさで拍動が早まる。
「ーー二度目はなくってよ!」
「……え」
暫く悶々としていると、無理矢理高い声を出しているのか、掠れた女の声が聞こえた。二度目はなくってよ、とは何なのか。太宰のメッセージなのだろうか。
しかしこれは明らかに太宰の声ではない。ということはーー、
「マフィアの……?ーーっ」
太宰の真意を読み取ろうとするAの元に影が向かってきた。踏みしめるように影は降りてくる。
身長はAと同じくらい。女性としては平均的な身長だ。そして、左側の襟足を肩口まで伸ばしている。
「ーーーー」
黒みがかった赤色の髪が揺れた。女は光のベールをくぐり抜け、Aの方を見やる。
空を閉じ込めた碧眼と目が合って、Aは萎縮した。その瞳は微かな憤怒を帯びたまま逡巡。
そしてーー、
「ーーったく、何で俺がこんなこと……」
黒帽子を被る女が愚痴を吐き乍らAの目の前に立つ。ーー女?女、女ーー女?
いや、その人物は女ではなくばりばりの男だった。
声もそうだし、観察してみれば服も全て男物だ。付け加えておけば、彼の身を包むものはAが盗んだ黒外套の数倍は下らない上質な布を使用したものばかりだった。
「手前がAか」
「ーーぁ」
「そう怯えんな……ってのは無理か。何せ、此処はポートマフィアの獄舎だからな」
「ーー。貴方が太宰さんと……いや、太宰さんは?」
先刻太宰と戦闘していたのは恐らくこの人。
彼は、太宰の名を出すと心底厭そうに口元を歪めた。相当太宰が嫌いなのだろう。
「え、ぁ……?」
「良いから、黙ってろ……っと」
男の整った顔が至近距離に迫り、Aは息を詰める。
暫く、
そして鍵をポケットから取り出すと、Aの手を掴んで、拘束具の鍵穴に鍵を差し込んだ。
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作者名:女中 | 作成日時:2022年6月11日 11時