百十四話/憎悪と憐憫と ページ14
「……成程、頭はそれなりに切れるという訳か」
微かに瞠目する芥川だったが、彼は直ぐに顔を元の仏頂面へと戻す。ーー否、それは無表情を装ってはいたが、隠しきれていなかった。
「ーーーー」
Aは今更気付いた。世界の全てを灰色に映す彼の瞳の奥に、
この瞳を、Aは見たことがあった。
この瞳を、彼はあの時もしていた。
しかし、現在の彼の瞳に見える負の色はあの時の比ではない。全てを呑み込む凍てつく炎がそこにはあった。
その、負の視線を自分が受けている意味がAには判らない。だって、芥川とはーー、
「
そう。初仕事襲撃の際にAは『細雪』で自分の姿を視認化できなくしていた。だから、彼とAが本当の意味で対面するのは初めての筈だ。なのに、どうしてそんな瞳を此方へ向けるのか。
「虚像……」
が、Aは目先の疑問より彼の言葉に引っ掛かりを覚えた。
先刻、芥川はAのことを『虚像の異能者』と呼んだ。それは正しく、間違いでもある。あの時Aは確かに虚像の異能者だった。しかしあの時
芥川の話から推測できるのは、Aの異能力をポートマフィアは正しく理解していないということ。
これは今後役に立つかもしれない。ーー今後があれば。
「僕から貴様に朗報がある」
「ーーーー」
「今から提示する道、貴様にはその
朗報と聞いて身構える。悲報の間違いじゃないかとも思ったが、ーー朗報。そう、これは素直に朗報だ。
だが、ポートマフィアが敵を喜ばせるときは、大抵作戦が水面下で遂行されている時ーー。油断してはいけない。
それに、一方を選ぶ権利があると謳ってはいるが、逆にいえば選ばないという選択肢はないことを示している。
「一つ目は貴様が此処で大人しく磔の餌になることだ。探偵社は結束が強いと聞く。それが吉と出るか凶と出るかは明白だがな。……詰まらぬ」
芥川なら単身でも探偵社の半分は崩せそうだが、そう上手くはいかないらしい。
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作者名:女中 | 作成日時:2022年6月11日 11時