百一話/空気の種類 ページ1
一方後ろに下がった杉本。それは、彼なりの拒否の意志を表すものだった。
｢ば、莫迦云わないで下さい。一般人に官給の拳銃を渡したりしたら減俸じゃ済みませんよ！｣
案の定、拳銃を渡さない意志を叫ぶ杉本。彼の言葉に箕浦も｢その通りだ｣と賛同し、
｢何を云い出すかと思えば……探偵って奴は口先だけの阿呆なのか？｣
｢その銃を調べて何も出なければ僕は口先だけの阿呆ってことになる｣
余裕そうに答える乱歩に、暫く沈黙し、箕浦は｢……ふん｣と鼻を鳴らすと、
｢貴様の舌先三寸はもう沢山だ。杉本、見せてやれ｣
｢え？で、ですが｣
｢ここまで吠えたんだ。納得すれば大人しく帰るだろう。これ以上時間を無駄にはできん。銃を渡してやれ｣
｢ーーーー｣
｢おい、どうした｣
沈黙する杉本に、箕浦が振り返る。下げられた彼の顔を覗き込もうとするが、見えないーー視えない。
その様子を太宰や敦と共に少し離れた場所から見ていたAは息苦しさを感じていた。
杉本や箕浦、そして敦の緊張が伝わってきているのだ。指先が冷たい。躰が、熱い。
｢いくらこの街でも素人が銃弾を補充するのは用意じゃない。官給品の銃であれば尚更｣
｢ーーッ｣
｢何を……黙っている、杉本｣
｢ーー彼は考えている最中だよ｣
そう、乱歩は彼を、警察官を、巡査を、杉本を、指さした。
｢減った三発分の銃弾についてどう云い訳するかをね｣
瞬間、杉本の顔が凍り付く。
彼は何も反論せず、
｢おい杉本！お前が犯人の筈がない。だから早く銃を渡せ！｣
弾き出される答えに従い、硬直していた杉本の躰が動き出す。
左ポケットの中、指先に冷たいものがあたる。
それを取りだし、手馴れた手つきでそれをセットした。これで、指先に力を込めればいつでもーー、
｢マズい｣
｢ーーぁ｣
少し離れたところから自分の方を見る、包帯の男と黒髪の少女の言葉と息を呑む音も何の意味も成さない。
｢ーーっ！｣
銃を構え、指に力を込める。撃つ気だ。誰を、なのか。それは
唯、この場から逃げようとーー、
｢行け、敦君！｣
｢え！？｣
｢ちょ……っ！！｣
｢止めろ！｣
太宰に背中を文字通り押された敦が勢いのまま、杉本の方へと。そして、彼が銃を持つ手を強引に空へと向けさせた。
｢ーーっ｣
乾いた音が、鳴り響いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 111人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：女中 | 作成日時：2022年6月11日 11時
