百二話/耳鳴り ページ2
微かな耳鳴り。それは、銃声を聞いた後に訪れるお約束イベントである。何時か、慣れる時がくるのだろうか。
「……敦君!!」
そんな感慨を強引に振り払い、Aは敦の名前を呼ぶ。彼は、その細腕からは想像もつかない力で杉本を地面に叩きつけ、身動きのできないように腕を固定していた。
「お、やるねえ」
「敦君になんてことさせるんですか!」
「やだなぁ、出来そうな仕事は新人に任せる。仕分け作業も、先輩の役目だろう?」
「だからって……」
全く悪気の無さそうな太宰にごもっともな事を云われ、Aは口ごもる。でも、だからってあんなに危ないことを、しかも事前打ち合わせも無しにやらせるのは如何なものか。幾ら何でも急すぎる。
「離せ!僕は関係ない!」
「逃げても無駄だよ」
そうして叫ぶ杉本に乱歩が近寄る。銃を撃ったのに関係ないだなんて、そんなことを云う杉本は完全に支離死滅、矛盾している。そして、それほどまでに彼が追い詰められているのは見て取れた。
勿論、名探偵はその反応も予想通りなのか全く動揺していない。
「犯行時刻は
「なっ何故それを……!」
素人目から見ても彼が犯人なのは明らかだった。
定まっていない焦点、浮かんでいる冷や汗、目を見開き、自分を偽れていないその反応。
それは彼が犯人だという何よりの証明だった。
「そこに行けばある筈だ」
「ーーーー」
杉本は応えない。Aにはそれの様子が、彼が罪を認め、罰を受けたがっているように見えた。
だから名探偵が云う。真実を、杉本が犯した罪を。
「君と被害者の足跡、それに消しきれなかった血痕が」
「どうして……バレるはずないのに……」
敦に拘束されていることを忘れてしまったかのように、杉本は顔面を蒼白にしてそう呟く。
ーーもう逃げる意思はない。そう判断した箕浦が、敦をどかせ、杉本の肩へと手を置いた。
「続きは職場で聞こう。お前にとっては……元職場になるかも知れんが」
そう云って、箕浦は手錠を取り出した。
そのまま両手に手錠が掛けられ、背中を押される。
抵抗もせず歩いていく杉本の背中がなんだか悲しかった。
「……同じだったら、善かったのに」
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作者名:女中 | 作成日時:2022年6月11日 11時