慰めの言葉１６ ページ19
薄暗い通路をぼんやりとした光を頼りに進む。
地下牢はひんやりとした空気で満たされ、薄気味悪い。
「あ、Aさん。こんにちは。」
ある牢の前まで来ると、不気味なお人形を抱えた可愛らしい男の子が私にぺこりと頭を下げた。
「こんにちは、夢野様。お掃除に参りました。」
「はーい。終わるまで、ベッドの上にいるね。」
地下牢の掃除は週に1回。
この掃除の時間は牢の鍵も外れ、絶好の逃亡チャンスでもある。
「…夢野様は、どうして私に異能を使わないのですか？」
「えっ？いきなりどうしたのAさん。」
夢野様がこてんと首を傾げになる。
無垢な瞳は、言葉の真意を探ろうと私を真っ直ぐに見つめた。
「私は異能を持たない云わば凡人です。
若し、今此処で私に異能を使えば、この様な処直ぐにでも脱出できるのではないかと思いまして。」
「確かに、Aさんの云う通りだね。
……僕ね、前に森さんに悪戯でその事云ってみたことがあったの。
そしたら、冗談でも二度とそんな事口にするなって凄い形相で言われちゃって…。
それに、Aさんはいつも僕に優しくしてくれるから、異能は使いたくないなって。」
夢野様は、私の目をしっかりと見つめながら仰った。
私が微笑むと、夢野様もにっこりと微笑まれた。
「妙な事をお聞きしてしまい、申し訳ございません。」
「いいんだよ。
それにしても、森さんはAさんのことを凄く大事に思っているんだね。」
「…そうなのでしょうかねぇ。」
「うん。本当に怖かったんだからね！！
お化けだって逃げていくよ。」
お人形をぎゅっと抱きしめた夢野様を横目で見ながら、私は掃除を進めた。
「今日も綺麗にしてくれて有難う。」
「当然の事をしたまででございます。
……此れ、少しですがどうぞ。」
「わぁ！！黒糖蒸しパンだ…！いいの？」
「ええ。」
夢野様は無邪気な笑顔で私に頭を下げた。
牢から出て、また鍵をかける。
牢の中で幸せそうに蒸しパンを頬張る夢野様の表情が、暫く頭から離れなかった。
＿＿＿
次からまた番外編を挟みます。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1042人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
lokiloki - こちらの作品をとても気に入ったのでプレイリストに載せさせてもらいます ※自分の作品を消したい場合はお手数をかけますがプレイリストの 【おもしろ度を投票】の上にある 【リストから削除】からやるか、プレイリストのコメントから作者に言ってください (4月25日 1時) (
レス) id: 388da595fc (このIDを非表示/違反報告)
巫子(プロフ) - とても面白いお話ですね！『やめないか。』が『やらないか。』に見えました！←どうでもいい (2018年1月3日 20時) (レス) id: 343e14107c (このIDを非表示/違反報告)
アメヲト - おおおっ！戻って下さり本当にうれしいです♪ (2017年2月14日 21時) (レス) id: dfeb66c68a (このIDを非表示/違反報告)
唯 - お久しぶりです！！ (2017年2月14日 17時) (レス) id: 80ca6023d8 (このIDを非表示/違反報告)
カヤ猫 - 面白かったです！今後森さんとどうなるかが気になります。更新頑張ってください。 (2017年2月12日 19時) (レス) id: 30c508f23e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：柚澤 | 作成日時：2017年1月12日 23時
