Tu aimeras les gens et tu vivras fierement〈第五章〉 (ページ37)

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女神が欲したものページ37

「……ん……」

　夜も更け、蒼く柔らかな光を放つ満月が地上を優しく照らす頃。メリオダス様は、微かな呻き声をあげて目を覚ました。まだ意識がはっきりしないのか、光彩を欠いた翠の瞳をゆっくりと瞬かせる

「気が付きましたか？」

「……てぃあ……」

　メリオダス様が告げたその名に思わず目を大きく見開いた。彼の額に乗っているタオルと取ろうとした手が止まり、心臓はその存在を知らしめるように強く速く脈打つ

「懐かしい…名前……。だれ……？思い…出せねぇ……」

　まだ、"思い出して,,いない。ただ、記憶の彼方にある知らない名に、戸惑っているだけ。もしかしたら、私の魔力が彼の魂に僅かな影響を及ぼしてしまい、遥か昔の記憶を呼んだのかもしれない

「夢の中に出てきた方ですか？」

　全ての感情を隠して。勘が鋭いこの人にさえ動揺したことを気付かれないように細心の注意を払って。私は、悠然とした笑みを浮かべてメリオダス様に問う。何度か瞬きをしたメリオダス様は、状況を理解したようで苦笑する

「あぁ…そうだ。…でも、もう思い出せねぇ……」

「夢なんて、すぐに忘れてしまうものですよ」

　自分が放った言葉で、心のどこかが壊れていく音が聞こえたような気がした。自らの言葉に傷つくなんて、馬鹿げた話だ

"ねぇ…キミは自分の為に生きたことはある？,,

　昼間、キング様に問われた言葉を思い出す

　…メリオダスをエリザベスに預けたのは、私の我儘だわ。彼に自由になり、幸せになってほしかったから。ずっと、自分の為に生きているつもりでいた。けれど、キング様には違うように見えたのかしら……

「…夢なんて、忘れちまうもんだよな」

　柔らかく微笑んだその笑顔は、かつて私に向けられていたもの。そして、今は＿＿＿＿＿＿彼が初めて自分で選んだ、最愛の彼女に向けられるもの。かつて喉から手が出るほど欲したそれを再び向けられた私は、じわりと目尻に滲む涙を零さぬように固く目を瞑った