第三章 −彼らの背中ー 1 ページ22
目覚めは最悪だった。体は重くても瞼は軽く、思考に霞がかかっていても記憶は冴え冴えとしている。障子の向こうの薄明りが煩わしい。
もしゃっと絡まった髪に適当に手櫛を入れながら布団を出ると、Aは寝着の紐を解いて枕元の着替えに手を伸ばした。
_____何も、できなかったんだ。
吐き出す息さえ、重く感じた。
「ひでぇ顔だな」
廊下で鉢合わせた開口一番に、土方はそう言った。
Aがちらっと横の広間を見ると、まだ誰も来ていなかった。それが幸いだったか、彼女の顔が歪んだのを見たのは、その兄だけだった。
「……ん」
「なんだ、分かってんじゃねえか」
土方は大きく息を吐くと、Aの頭に手を乗せる。髪の毛越しに、兄の体温がA伝わって来た。
「昨夜のことは大体聞いた」
それだけでも十分だった。Aの胸が、ずんと一層重くなる。腰に差した大小を下ろしてしまいたくなるほど。
「ごめん、なさい」
「何がごめんなさいなんだ」
土方の手に力がこもった。ぎりぎりと妹の小さい頭を締め付ける。痛い、という弱々しい抗議を無視して、彼は続ける。
「お前は謝らなくちゃなんねえことをしたのか」
Aは兄の紫の袖を引っ張りながら、眉を曇らせる。
「…し、た」
「いや、してねえ」
絞り出した妹の呻きをばっさり切り捨て その頭を解放すると、Aは下唇を噛んで袖を離す。未だに暗い表情のAを見て土方は微かに笑むと、その額をはじいた。
「って、」
「助けが来るまで、よく粘ったな」
土方は妹の返事も待たず、くるりと身を翻すとAと反対方向に足を進めだした。
彼は振り返らない。朗々と、同志に語りかける時と同じように、涼やかな空気の中で、その言葉はすんなりと風に溶け、彼女の体に染み込んだ。
「簡単に人に頭を下げるな。必要以上に引っ込むな。いつでも顔上げて、堂々としてやがれ。大小差すと決めたんならそんくらいの心意気を持て、A」
後に残ったのは、眩しい日の出と、すがすがしい余韻と、呆けた顔の彼女。
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霜月こよみ - 嬉しすぎて慌てたせいで、下の返信がどなた宛てか分からなくなってしまいました。すいません。燐タロ様への返信です。 (2016年3月1日 23時) (レス) id: 953b6274fe (このIDを非表示/違反報告)
霜月こよみ - 閲覧、そしてコメント、ありがとうございます! これからこの2人はどんどん絡んでいく予定ですので、楽しみにしていて下さいませ! 更新頑張ります! (2016年3月1日 21時) (レス) id: 953b6274fe (このIDを非表示/違反報告)
燐タロ - 主人公と沖田さんの関係が気になります。更新楽しみに待ってますね(*´∇`*)。 (2016年3月1日 15時) (レス) id: 725f51c669 (このIDを非表示/違反報告)
霜月 - 最近 まったく更新出来なくてすいません。現実がもう少し落ち着いたら、書き出そうと思っています。こんな作品ですが、これからもよろしくお願いします。 (2015年1月28日 23時) (レス) id: 953b6274fe (このIDを非表示/違反報告)
冷凍バナナ(プロフ) - 頑張って!霜月ちゃん(*´∨`*)ノ"面白いよ! (2014年11月8日 11時) (レス) id: 55ea56e042 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:霜月こよみ | 作成日時:2014年3月22日 15時