【文スト】双黒の育て方。

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怪我に真っ先に気づいたのは中也くんでした。すれ違う際に小さな声で


｢腕、やってる｣


と伝えてくれました。






包帯を外し、露になった白い肌に目立つ痛々しい朱。｢片腕だけ｣と答える太宰くんに表情はありません。

一通り処置が終わる頃には中也くんが作っているシチューの良い香りがしてきました。


暫く黙り込んでいた太宰が重い口を開きます。





｢A、…｣



貴方を呼ぶ声。
欠けた無の表情に光を拒む目。

意を決したように息を吸いますが、何かを躊躇い視線を落とします。






｢……やっぱり、なんでもない｣







彼が抱え込んでいる感情は何でしょうか。

自ら傷付けてまで抑え込む感情は、一体。





『太宰くん、』重ねた彼の手は震えています。



貴方の声に背中を押されて彼は掠れた言葉を紡ぎました。






｢怖いんだ。

……この生活が何時までも続く訳じゃあ、無いから｣






本来なら彼等は武装探偵社の一員、

ポートマフィアの五大幹部としての日常があります。






元に戻れば恐らく…

…特に太宰くんとはもう関わりは殆ど無いでしょう。




薄々気付いてたのです。
子供は大人や周囲の様子に敏感です。






｢僕は、

今ある時間が終わってほしくない｣







噛み締める唇は言葉を選んでいるようでした。


太宰くん、と呼び掛ける貴方の声。





『君だけじゃないよ。そう思っているのは』







鳶色の目が微かに揺らぎます。
貴方を認識した時、目には驚愕の色が滲みました。

何故なら、微笑んでいるはずの貴方は今にも泣き出しそうな表情に見えたからです。





『私も怖いよ。太宰君や中也君…何時しか離れて、また独りぼっちの生活になるかもしれないって不安を抱えてるんだ』



「…A」





貴方の名前を呼ぶ彼の声が何時まで聞けるか分かりません。

そう思うと寂しいものがあります。







『中也君』




貴方は廊下に向かってそう言うと、「気づいていたのかよ」と中也君が廊下から姿を現しました。

彼は壁際に寄りかかって腕を組みます。







「盗み聞きだなんて質悪い」

「あっそ。自ら腕切ってAにそんな表情させる手前の方が質悪ぃな」




珍しく言い返す事が出来ず、罰が悪そうに視線を落とした太宰君。

そんな様子を横目に中也君は言います。

　




「俺だって、
不安な気持ちぐらい幾らでも抱えてる」

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