第三十六話 星空の下 ページ39
愁side
Aと共にテラスへ出た。今日は良く星が見える夜だ。
愁「・・・Aは、俺の射をどう思う?」
『どうって……綺麗で、堂々としていて…真っ直ぐな射だと思う、よ』
愁「…そうか。最近、自分が何のために弓道を続けているのか判らなくなってきてね。少し不安だったんだ」
『そっか。・・・でも確かに、前よりもブレることもあるし、視界がぼやけているようにも見える、かな。その不安の所為かもね』
視界がぼやける・・・。確かに、眩暈のようなぼやけ方をしているかもしれない。
愁「・・・そういえば、Aはどうして弓道を?高槻家は茶華道を重んじていた筈だろう?」
『…あ〜それはね____________秘密』
愁「!…そうか。秘密なら詮索しないでおくよ」
『愁は?私よりも早く始めたでしょ?何かきっかけがあったの?』
そういえば、俺が弓道を始めたきっかけをAにははなしていなかったな
愁「市の弓道場で初めて見てね。一目惚れだったんだ。ここまで続いているのが凄いと思っているよ」
これも少し違う。一目惚れだったのは間違いないが、その真意は俺に欠けた“あるもの”を満たしてくれると思ったからだ。
『そうなんだ。でも、他に何か大切な理由があるんでしょ?』
愁「…何でもお見通しだな」
『幼馴染ですから。何でも知ってるよ!愁は心に余裕がないと直ぐ不機嫌になる。でも単純だから直ぐにいつも通りに戻ってる、とか』
愁「Aは物が見つからない時と寝起きは機嫌が悪い。でも普段は、良い意味で感情の起伏が少ない」
『大切なものや人を侮辱された時は流石に怒るよ。でも、頭のどこかで思ってるんだ。“誰にでも好かれなきゃいけない”って。だから、感情の起伏が少ないのかも』
そう言うと、Aは寂しそうに笑った。
“誰にでも好かれなきゃいけない”…か。
Aが時節見せる光を失った瞳。その色は紺桔梗になり、今にも吸い込まれそうで恐怖を覚える程、暗い闇を纏った瞳だ。
愁「そろそろ中へ入ろうか」
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作者名:i | 作成日時:2023年3月21日 22時