不釣愛 [藤原愁] (ページ36)

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第三十三話　県大会予選(二日目)　貴方の隣ページ36

Aside

『愁、団体個人優勝おめでとう！』

愁「ありがとう。次は県大会本戦、Aも団体戦出るから頑張らないとね」

『うん！』

愁「…少し、湊と話してくるよ。先に車に行っててくれ」

『あ、うん…』

鳴宮くんが此方へ歩いて来た。その先には、愁が待っている。

愁「湊＿＿＿＿＿＿＿俺はもっと高みが見たいんだ。一人じゃ辿り着けない・・・湊が必要なんだ」

(湊が、ね…)

愁「…お前は不意に現れて、俺の人生を変えたんだ。その責任は取ってもらう」

(___________________っ！)

そこまで聞いて、私は黙ってその場から離れた。

『・・・静弥？』

静弥「っ！…Aも、二人の会話を聞いていたのかい？」

“も”ってことは、静弥も聞いていたのか。

『…うん』

静弥「・・・何かあったら、また相談していいからね。僕は君たちの事情を知っている数少ない人間だから」

『ありがとう、静弥。それじゃあ、また本戦で・・・』

愁はやっぱり、弓道にしか興味が無いのだろうか…
そしてその弓道でも、私ではなく鳴宮君が必要だと言うのだ。その上愁の人生を変えた責任を取れだと？悔しさを通り越して苛立ちさえ覚える。

そしてふと、今日のあの紫色の瞳がフラッシュバックする。
とても胸が苦しい。

(自分で決めた“道”だったのにな・・・)

高槻家では、代々茶華道を重んじる習わしがある。同じ「道」でも、弓道や剣道などの所謂「武道」は良しとされてこなかった。だから桐先中学に進学する時に弓道部へ入りたいと言った時も、最初は茶道部があるからそちらへ入るように言われた。
そこで、私は両親を説得し、同じ「道」として現在は対人ではなくなった弓道を学ぶことへの理解を得たのだ。

最初に愁の射を見た時、あの真っ直ぐな瞳の先にある“何か”が私であって欲しい。そう思って今まで必死にやってきた。

そんな弓道でさえ、愁の隣に並べないのか・・・

弓を持った右手に力が入る。

私の方が愁の事を長く見ているというのに、
鳴宮くんの方が愁の隣に並ぶのに相応しいというのか？

悔しい＿＿＿＿＿＿＿

＿＿＿＿＿＿＿だから私は、今でも鳴宮君のことを名前で呼べない。