【弱虫ペダル】空ノ向コウ【東日本大震災】

3.11〜 黒い海 ページ14

「津波がくる！」

しばらくして、そんな声が聞こえたのは覚えています。

ただ私は先生に急かされて屋上に駆け上がりました。

そこで見たものに目を疑った。

街を呑み込む黒い海。

見慣れた海が姿を変え、襲いかかっていました。

ある人は泣き叫んでいました。

ある人は携帯電話のカメラを向けました。

私はただ呆然としていました。

あまりの事態に何もわからなくなってしまったのです。


叔父さんは次の日に迎えにきました。

だけど空はいませんでした。

叔父さんと私は近隣の避難所をいくつか訪ねました。

歩いていける範囲には空はいませんでした。

叔父さんは無事だった親戚の自転車を借りてもう少し遠くの避難所まで探しに行きました。

そこにも空はいませんでした。

たくさんの親戚や友人、遠くにいる人もネットから探してくれました。

でも、どこの避難者リストにも空の名前はありませんでした。

「パソコンから手で打ち込んでいるから時間がかかっているんだよ。」

叔父さんはそう言いました。

不確かな情報にだって縋りました。

でも、どこにも空はいません。

希望が灯っては消えて、また灯っても消えて。

怖くてしょうがなかったです。

でも、泣いちゃいけないと思いました。

私より大変な人はいくらでもいる。

だから私は泣いちゃいけない。

そう思って。

私たちは空を探しました。

伯父さんも親戚も、私の友達一家も手伝ってくれました。

暗闇を小さなロウソクの灯りと手探りで進む感覚でした。


✄-----ｷﾘﾄﾘ-----

作者の町の中学校まで遠くから自転車で息子さんを探しに来た人の話は印象に残っている。結局作者の中学校にはその人の探し人はいなかったらしい。
対応した先生はその人に水と食料を手渡したそうだ。

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