【弱虫ペダル】空ノ向コウ【東日本大震災】

3.16〜 遺された命 ページ15

そして5日後、一本の連絡が来ました。

私と伯父さんが向かったのは市民体育館です。

地震のあと、遺体安置所として使われていた場所でした。

中には泣いている人しかいませんでした。

たくさんの人がビニールシートにくるまれていました。

私と伯父さんは何人かの遺体を確認しました。

「違う。」

「うちの子じゃないです。」

私たちは何度かそんな言葉を発しました。

そして、

「…そ、ら……空だ！」

空が見つかりました。

私はしばらく泣き叫んでいました。

伯父さんが私を抱き締めてくれました。

伯父さんも泣いていました。

後から聞いた話だと、やっぱり帰る途中で逃げ遅れてしまったようです。

服は着ていないと聞いたので、空に私のジャンパーをあげました。

後日、親戚が手廻ししてくれたらしく、奇跡的に遠隔地で空は火葬されました。

本当は、私も命を絶とうかと思いました。

空が自転車に乗っていない世界には意味がないと思いました。

春はすぐそこでした。

空は大会でペダルを回して優勝して、私はまた空と伯父さんと一緒に喜んでいるはずでした。

でも、情けないことにそんな勇気はありませんでした。


空が火葬された次の日、流されていた伯父さんの車が偶然見つかりました。

見つけた親戚が中を確認すると、輪行袋に入ったスカイブルーの自転車がありました。

空の自転車でした。

伯父さんはてっきりもう乗ることはないだろうと既に解体して車に積んだらしいのです。

その親戚はバールとか色々使って車をこじ開け、私たちがいる避難所に自転車を届けてくれました。

泥だらけの輪行袋の中を見た時、私は空に再会した気がしました。

それは空の生きている一部でした。

空がその自転車にまたがる姿が見えるのです。

そして、笑って走る姿も。

「勇太おじちゃん。」

私はある決意をした。

「私が空の代わりに乗る！空の代わりに速くなる！！」

空がいないなら、私が空になればいい。

そんな馬鹿みたいな考えでした。

自分の体格ならジュニアサイズであるこの自転車にも乗れる。

おそらく部品はほとんど交換するだろうけど、整備すればなんとか乗れると私は知っていました。

「私が空の夢を叶えるよ…！！」

泣きながら私は叫びました。

その日は綺麗な青空でした。

空っぽだった私の中に、熱が灯りました。

このスカイブルーの自転車がたった1つの私の生きる希望でした。


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私はそれでも生きると決めた。

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