第97話 ページ47
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痛い、苦しい、辛い。テニスを始めて以来味わったことの無い感情に生理的にあふれてくる涙を拭って、それでもAは何度だって立った。
それが何度だって続いたとき、平等院がコート外を見て舌打ちをした。既に意識が朦朧としていたAにはコート外に何があるのかも分からず、ただガムシャラに立ち上がって焦点の合わない視線を平等院に向け、ふらついた足で構える。
コート外に見えた光景にも、何度だって立ち上がるAにもイラついた様子の平等院がサーブトスをあげる。
「今度は顔だ……せいぜい頑張って避けるんだな!」
ここまでしておいて配慮も何もないが、平等院は仮にも女子であるAの顔にはボールを当てなかった。それでもとうとう苛立ちでその気持ちすら消えたらしく、冷たく言った彼がサーブを打つ。
既に反応する力も避ける力も残っておらず、ただ立っているだけの状態であったA。このままでは顔に当たってしまう――そう思われたときだった。
「いい加減にしやがれ!!」
目の前に割り込んできた人物によって、サーブは打ち返された。がたいのいい赤髪の男であるという事しか今の頭では理解できず、Aは状況を整理することすらままならない。ただ、何故か強い安心感を感じた。
自然と殻の力が抜けて、重力に従いふらりと横に倒れようとする体が何者かに支えられる。「辛かったね。」という優しい声と暖かい体温に、Aは気づくと目を閉じていた。
「……また俺の邪魔をするか。」
「してやるさ。お前のやり方は間違っている。」
鬼が鋭い目つきで睨むと、平等院くんは苛立ちを隠さず舌打ちをした。2人の間に険悪な空気が流れる。
そんな空気を断ち切ったのは、パン、と乾いた拍手の音だった。
「ハイ、そこまで〜。」
「試合は終わりです。キミ達も試合を見ていた選手達も、練習に戻るように。」
コーチ達の言葉を受けて、平等院くんは僕達に背を向けた。周囲の選手達も去っていき、僕は改めて腕の中にいる少女に視線を向ける。
幸い顔にはひとつも傷はみられない。それでも腕や足には痛々しい傷跡が残っていた。所々ボールがすれてか血が出ている箇所が生々しくて痛々しい。顔をしかめると、鬼がそっと彼女を抱き上げた。
いくぞ、と小さい声で言って歩き出した鬼。その顔つきはまるでお兄ちゃんで、少しだけ頬が緩んだ。
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作者名:赤兎リエ輔 | 作者ホームページ:http://nekomoti
作成日時:2019年1月10日 0時