第86話 ページ36
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Aの得意サーブの仕掛けを見破った跡部に流石、と軽く拍手しながら笑うと、跡部はふんと鼻で笑った。
「シャッフルマッチでは披露せず今見せるあたり、いい性格してるぜ。」
「あ、褒めてくれてる?」
「どーだかな。」
目線をそらした跡部にくすくす笑いながら、Aはボールを構える。今度は宍戸にサーブを打つ番だ、と対角線上に居る宍戸に笑みを向けた。
「今度は宍戸くん、いくよ!」
「……よし、こい!」
楽しそうに笑って構える宍戸と、応援する鳳。丸井とのシャッフルマッチでも感じた楽しさとわくわくと胸いっぱいに感じて、先ほどの黒部とのやり取りなど頭から消えていた。
強くなる……そしていつか徳川に勝つ。圧倒的に大きな憧れを越えるその日を思って、Aはラケットを振った。
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試合は3-1で跡部、Aペアの勝利に終わった。即興のペアではあったためどのゲームもギリギリだったが、跡部の高い実力が勝利の要因といえるだろう。入江が一目置いた男の実力をダブルスを組んだことによってより知った気がする。
丁度いい時間にもなり、ここで解散することになった。ほどよく体も温まり満足度を得られたため、Aは部屋に戻ることにした。
コンコン、とノックの音が静かな部屋に響く。グリップテープの張替えをおこなっていた手を止め、Aが「どうぞー?」とドアの外にいる人物に声をかけた。
開かれたドアから現れたのは徳川だった。まだジャージ姿で、肩にタオルをかけている。
「徳川さん!こんばんわ〜。あ、入ります?」
「嫌、いい。長居するつもりはない。」
それならば何の用なのだろう、と彼の元に駆け寄ってから首をかしげる。
「明日、午後の練習の時間に買出しを頼まれたんだが、一緒にどうだ?」
徳川からの言葉に、Aは思わず「えっ?」と素っ頓狂な声を上げた。不思議な反応のAに今度は徳川が首をかしげる。
自主練と同じようにいつもは同行を頼む側だった。だからこそ余計驚いたのである。
「コーチ達にここ最近無理をしているようだから羽を伸ばさせてやれと言われた。それに、ここ最近ゆっくり話も出来ていなかったしな。」
そういって少しだけ笑った徳川の笑顔は柔らかかった。その優しさ、あたたかさに触れ、Aは思わず目を見開く。そしてすぐに顔いっぱいに笑顔を浮かべて「ありがとうございます。」と告げた。
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作者名:赤兎リエ輔 | 作者ホームページ:http://nekomoti
作成日時:2019年1月10日 0時