無印・初期 夢のはじまり ページ35
4月、雷門中学に入学して間もない頃の事。
「……部活、な。」
おばあちゃんも、何でも出来るうちに色々やりたいことやってみなさい、とは言っていたけど……
部活勧誘のポスターが所狭しと貼り付けられた掲示板の前を右往左往している一人の生徒がいた。
名を御剣Aと言った。
一歩動くたびに薄紅の髪を舞わせながらうんうんと悩ましげに眉を寄せているその姿すら様になるような可憐な少女は、昼休みの半分ほどをそれに費やしていた。
……実を言うと、先程からやたら目に止まる部活はあるのだが。
彩り豊かな画用紙やサインペンなどでアピールをしてくる勧誘ポスターを他所に、一際異彩を放つものがあった。
白地に黒い筆で端的に"部員求ム"と大きく書かれたポスター……と言うべきなのか、今どき古風だと呼べる張り紙が海と空を綯い交ぜにしたような澄んだ青によく映り込んだ。
一体どこの部活のものだ、とほんの一雫の好奇心で御剣がそれの前に立ち止まったちょうどその時だった。
「ねぇ、貴方サッカー部に興味があるの?」
「……?」
突然かけられた声に特に驚く様子もなく、御剣は声の方へゆっくりと顔を向けた。
そこに立っていたのは、御剣と同じく少女――毛先を外側に跳ねさせているショートヘアに、ピンクのヘアピンで前髪を止めている、人好きのする笑顔が可愛らしい少女であった。
緑のリボン……ってことは同学年かな。
このポスター、サッカー部のものだったのか。
「……貴方、一年の御剣さんよね?」
「え、なんで知って…」
今度は驚いたそうで、目を少しばかり見開き、気の抜けたような声が僅かに零れた。
「"隣のクラスに美人さんがいる"って、有名なのよ?」
首をかしげながらそうなの?と問い返した御剣に、自分よりも背の高い彼女に小動物的な何かの気配を感じた少女は一瞬胸を打たれ固まったが、すぐにはっとして、本題に話を戻した。
「……それはそうと御剣さん、もしかしてどの部活に入ろうか迷ってたり?」
「うん、まあ……何かしらやりたいとは思ってはいるんだけど、何をしようかまでは考えてなくて。」
「なら、今日の放課後、サッカー部に来てみない?」
――その言葉が、夢のはじまりであった。
「……そうだ、自己紹介してなかったわね。
私、木野秋。よろしくね、御剣さん。」
「じゃあ私も改めて……御剣Aです、よろしくお願いします、木野さん。」
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弓女雅零(プロフ) - こっちにも来ちゃいました(笑)やっぱりこの小説好きですっ!! (2019年2月25日 17時) (レス) id: fc748f73ac (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - リアトさん» リアトさん、はじめまして!コメントありがとうごさいます!ご指摘ありがとうございます!確認次第訂正いたします! (2019年2月15日 20時) (レス) id: a67af18030 (このIDを非表示/違反報告)
リアト(プロフ) - こんばんは。いつも展開をドキドキしながら読ませて頂いてます。ところで誤字報告を少し。>「確かに何人か俺にチョコらしきものを私に来た女子がいた。」これは「渡し」ではないかと思いまして報告させて頂きました。次話、お待ちしております。 (2019年2月15日 20時) (レス) id: 809030045e (このIDを非表示/違反報告)
七瀬真昼 - 分かりました!!というか返信してくれてありがとうございます!毎回毎回ご丁寧に…。私だったら返信しないまま放置ですよ多分。そういえばふと思ったんですが、次のイナオリで子文くんの正体が明らかになりますよね!見当ついてるけど…ゆきさんは分かりますよね! (2019年1月27日 17時) (レス) id: 60ce0b2030 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 七瀬真昼さん» 七瀬さんコメントありがとうございます!リクエスト、大変ありがたいお話なのですが、私事で大変申し訳ないのですが、モチベの関係で受け付けてないんですよ…本当にごめんなさい…でもバレンタインのお話は元々書く予定でしたので、そちらの方を是非見て頂ければ… (2019年1月27日 17時) (レス) id: a67af18030 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2018年12月17日 23時