きっと息をやめるまで 2【RKRN】 (ページ9)

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山本さんは長机の方へ向かってしゃがみ込む。
コトリ、と机の上にものが置かれる音がした。

｢紙と筆は机に置いておくわね｣
｢わかりました｣
｢紙は2枚あるから、1枚には手紙、もう1枚には家の場所をお願いね。もちろん、書くのは明日でいいから｣
｢はい｣
｢それから着替えを枕元に置いておくから、朝起きたらこれに着替えて欲しいの｣

｢それ…｣
山本さんが私の方に向き直って、枕元に置いたのは綺麗に畳まれたピンク色の忍び装束の一式だった。

｢Aちゃんが着ていた着物、汚れていたでしょう。ここに居る間だけでも代わりに着るものが必要だと思って。
学園にある制服の予備からAちゃんに合いそうなサイズ探して持ってきたの｣

｢いいんですか…？｣
(制服、って…きっと大事なものだ…)

私は置かれたピンク色の制服をじっと見つめた。
この学園にいた生徒がこれと同じような制服を着ていたことを思い出す。

そしてゆっくり顔を上げて山本さんの顔を見ると、山本さんは言葉で返す代わりに笑って頷いた。

｢あ、そうだ、忘れちゃいけないわ。Aちゃんの持っていた荷物もちゃんとここに持ってきてあるんだった。箪笥に入れて置いたから、明日にでも確認しておいてね｣

山本さんはすっと立ち上がって、ロウソクの火を消す。
部屋がぱっと夜の暗さに呑み込まれる。

｢いろいろとあって疲れたでしょう。ゆっくり休んでね。おやすみなさい｣

そう、暗がりの中でこちらに柔らかく微笑む山本さんが灯りもないのに眩しく見えた。

｢あの、山本さん。本当に…ありがとうございます…｣

｢うん、Aちゃんの気持ちは充分伝わってるわよ｣

その返事を聞いて、私が瞬きした次の瞬間にはもう山本先生はそこにいなかった。

そうだった。山本さんは美しい、くノ一なのだ。

私は布団の中に潜り込む。

こんなに、誰かからの優しさに触れてしまっていいのだろうか。

私はもう道を引き返せないのに。

そんなことを考えていたら、また涙がこぼれそうになった。

ダメだ、泣いてどうする。

もう私は泣かない。

そう心に決めて、私は目を閉じた。