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「山本さん、お待たせしました」
私は風呂場を出て、山本さんから予め受け取っていた白い寝間着に着替えると、入口のすぐ側で待ってくれていた山本さんに声をかける。
「あら、早いのね」
「いえ。寝間着とタオル、ありがとうございます」
山本さんを待たせるのはなんだか申し訳なかったのと、これまた伊作さんに「お湯に浸かって血流が良くなると傷が痛むから長湯は厳禁だよ」と注意されていたのを思い出して、私はできるだけ短い時間で済ませた。
(顔はあの後ちゃんと洗ったし、泣き顔は隠せてるはず…)
「それじゃあ、部屋に案内するわ」
「えっ、あ、」
私はタオルと先程までつけていた包帯、着ていた着物を両手に抱えたまま、山本さんに素早く軽々と抱き上げられる。
来る時と同様、お姫様抱っこだ。
「わ、私、自分で歩けるので大丈夫です…」
「ダメよ。けがしてるんだから。今は包帯も何も無い状態だし、寝間着の布が傷に擦れると良くないわよ」
そうまで言われたら断れず、弱々しく「…はい…」と返事をする。
それを聞いてにこりと微笑む山本さんが、すごく綺麗で私は思わずときめいてしまった。
同じ女性だけれど、とっても美しい人だと思った。
すっかり暗くなった長屋の廊下を、私を抱いた山本さんは颯爽と歩く。
何処がなんの部屋なのかさっぱりだったが、時々(障子)の向こうから灯りがついているのが見えたり、そこからさらに話し声が漏れていたりして、そこに人の暮らしがちゃんとあるのだと分かった。
「はい。着いたわよ」
角の一室へやって来ると、障子の前で山本さんの腕から降ろされる。
山本さんが静かに目の前の障子を開けると、がらんとしている部屋が見えた。
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作者名:加糖 雪 | 作成日時:2021年4月6日 16時