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「そんな、これ以上ご迷惑をかけられません」
私は慌てて言葉を返す。
「いいや、満身創痍なのに帰せない。せめてまともに動けるようになるまでここにいなさい」
言うことを聞かない子供を優しくなだめるように、学園長さんはそう言う。
だが、私もそう簡単に言いなりにはなれない。
「だ、大丈夫です。まともに動けます」
「木を杖に使っていたと聞いたが」
痛いところを突かれた。まさかそれを知られていて、ここで話に出されるなんて。
「早く行かないといけませんから。…私を引き取って…面倒をみてくださるという方が待っていて、心配も迷惑もかけられません」
これは嘘だ。押し問答という名の賭けだ。
私を引き取ってくれるところなんてない。
私は村も姓も捨てて、次の居場所を見つけるのもやめて、ここへ来た。
あとはここから去って、自分を捨てるだけだ。
「なら、ワシからその方のところへ“しばらく忍術学園で預かります”と事情を説明した文を出そう」
「…遠慮させていただきます」
もう付けるような理由が無かった。
今の私にはもう何もない。
言うなれば、そう。捨て身だ。
何も無ければ身を捨てるのも簡単だ。
覚悟もできている。
それなのに、何故ここを出ることが難しい。
「何故じゃ?何か不都合なことでもあるのか?」
学園長さんの今まで閉じられていた両目の、左目の方が私のことを捉えた。
この人は、純粋に疑問でこちらにそう聞いたような雰囲気をしている。
しかし、じっとこちらを見るその目に嘘を見透かされている気がした。
…もう何を言ってもダメだ。
「いえ、ありませんが…」
私はへらりと笑顔を取り繕った。
「じゃあ決まりじゃ!」
そのおじいちゃんは、高らかに笑顔で飛び跳ねて宣言した。
あらまあなんとお元気だこと。
私の負けだった。
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加糖雪(プロフ) - Hanakoさん» ありがとうございます!^^ (2021年4月25日 21時) (レス) id: ac64387404 (このIDを非表示/違反報告)
Hanako - 面白い!! (2021年4月17日 18時) (レス) id: 1d8bf8714f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:加糖 雪 | 作成日時:2021年3月31日 9時