第11輪 ページ12
でも、さっきの黒いの、どこかで…
記憶を振り返るがどうしても思い出せない。
そういえば、敦くんは"あいつ"と言ってたけど、知ってるのかな。
『敦くん、その、"あいつ"って、誰なの?』
恐る恐る聞いてみた。
敦くんは下を向いてしまった。
あ、まずかったかな。
敦くんの反応に困っていると、
「…た…わ……の…け」
たわのけ?たわしの毛?え?
それはないな。と頭を横に振った。
『ごめん、聞こえなかった。もう1回言ってもらえるかな?』
「芥川龍之介…」
芥川…龍之介………
まさか…!
私はその名前に心当たりがあった。
敦くんは私の表情を見て、
「Aちゃん、芥川のこと知ってるの?」
敦くんの顔から冷や汗が出ていた。
知っているというか…
『昔、お客さんだった人で友人かな』
もし、さっきのが龍くんだったらなおさら止めなければならない。
敦くんが何か言いたそうにしてたけど、私が一歩龍くんの方に歩き始めるのを見てやめていた。
龍くん…、芥川は私の親が経営していた花屋によく来てくれていた常連客だった。
花屋で私と芥川は出会った。
一歩一歩龍くんに近づいていく。
「Aちゃん、そっちにいっちゃダメだ!」
ごめんね。でも、止めなくちゃ。
敦くんが私を止めようとするけど私はそれを無視する。
敦くんが時間稼ぎをするって言ってたけど、私が時間稼ぎをする。してやる。
そして、人がいなくなった道路に龍くんは立っていた。
「お初にお目にかかる、僕は芥川」
お初にお目にかかる、だって。
どうやら覚えてないらしい。
『私のこと覚えてないか…。まあ、無理もないか』
経営していた花屋が潰れたのは今から9年前のことだし。
9年も行方がわかんなかった私なんて覚えてるわけないか。
「貴様、何を言っている」
龍くんが一歩近づいてくる。
なんだろう。とっても怖い。
逃げたい。
でも、逃げちゃダメ。
自分にそう言い聞かせ、まっすぐと龍くんを見た。
すると、龍くんがピタッと足を止めた。
「貴様のその目、どこかで見覚えがある」
なんとなく覚えてるんだ、目は。
なら、ちょっと言ってみようかな。
9年前のこと。
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作者名:ゆきれあ | 作成日時:2017年2月23日 22時