27話 それぞれ優しさ ページ27
母、百合が東京に帰って数日。
寂しさが心に残って何となく兄弟たちは暗い。
特に暗いのは雅紀。
ソファーに座ってベランダの外をじっと見ている。
雅紀が物思いにふけているのは寂しさだけではない。
今回は百合を見送ったのは雅紀。
列車を待つ駅構内で尋ねられた言葉は幼少の頃に良く聞いた言葉だった。
「聞かれるはもう嫌かもしれないけど……雅紀、あなたの本当の名前は何？」
施設に捨てられるまで呼ばれていた名前。
「……ごめ……覚えてないや…、何も記憶にないんだ……」
「そう、わかった。ごめんなさいね。嫌なこと聞いたわね」
優しく頬を撫でる百合。
そっと雅紀は百合に抱きつく。
「あらあら。甘えん坊さんね」
トントンと背中を叩く。
「……雅紀」
「うん？」
「心が苦しくなったら皆がそばにいるんだから、助けてもらいなさい」
「……うん」
優しい微笑み。
きっと百合は気がついている。
雅紀の嘘を。
昔の記憶は今も頭の中にこびり付くように残っている。
思い出したくない。思い出してはいけない。
怯えた目をしている我息子を励ますように抱きしめ返す。
遠くから電車が近づいてくる。
聖母のように優しい顔をした百合が電車に揺られ去っていった。
ずっとあれから雅紀は沈んでいる。
寂しさからではないことは兄弟たちもわかっているようで、何の詮索もしない。
「まー兄、ぜんざい食べる？」
「……後でいい」
「朝も昼も食べてないよね？」
「後でちゃんと食べるから……」
和也の顔が目の前に現れたと思うと、両頬を引っ張られる。
「いたたたたたたた！」
「づべこべ言わずに食べなさいよ。た・べ・ろ」
キッチンから器を持ってきた潤。
目の前のぜんざいの盛った器を置くと鋭い目をする。
「た・べ・ろ」
末っ子二人の攻撃をかわすこともできずに、口にする。
温かく甘い小豆が胃に落ちていく。
「……美味しいね……」
ほっこり温まる。
お腹から心へ温かさは優しさと一緒に伝わっていく。
少しはなれてその様子を見ていた兄2人。
「うちの末っ子たちは兄思いだね」
笑いながら見守っていた。
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むつき(プロフ) - はじめまして。探してコメントを頂きとても嬉しいです。続Homeも始めました。お時間のある時に覗いてやってください。コメント嬉しいです。ありがとうございます。 (2014年11月23日 21時) (
レス) id: 4345b608cc (このIDを非表示/違反報告)
あやち(プロフ) - はじめまして。HOME読ませて頂きました。以前読ませて頂いたのですが、保存等を行っておらず、お礼を伝えることが出来ませんでしたが、やっと見つけた!!読ませて頂いた時、涙が止まらなかったです。兄弟って素敵だなって思いました、素敵な作品ありがとうございました (2014年11月23日 18時) (レス) id: 6dc0a1d5bc (このIDを非表示/違反報告)
むつき(プロフ) - 翠さん» 翠さん。涙には心をキレイにする作用があるらしいです。いっぱい泣けるようにいいですよね。今日は次男さんのお誕生日ですね。っと言うことで大量更新します！ (2013年1月25日 21時) (レス) id: 75d4746b37 (このIDを非表示/違反報告)
むつき(プロフ) - 翠さん» 翠さん、コメントありがとうです。兄弟たちに支えられる絆が表現できたらと奮闘中です。 (2013年1月25日 19時) (レス) id: 75d4746b37 (このIDを非表示/違反報告)
むつき(プロフ) - アリスさん» アリスさん、私のほうがいつもお話を読ませていただいて号泣させて頂いています。つらい過去もみんなと共であれば前に進める、そんな話を書きたいと日々精進中です！ (2013年1月23日 18時) (レス) id: 75d4746b37 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：むつき
| 作成日時：2012年12月30日 17時
