三夜 ページ3
一々照れていたらキリがない、とぐっと表情筋に力を込めて平常心を取り戻す。
そして上がった体温を紛らわすように止めていた箸を再び動かした。
一口、二口と様々な料理を次々と口に運んでその味を堪能する。
流石上見世の出す料理か、どれも超逸品で私の心と胃はすっかり満たされてしまった。
嬉嬉として頬を緩ませながら黙々と食事をしていると、自分に向けられる視線に顔を上げる。
「どうかしましたか?」
「…俺らどっかであったことあるっけ?」
志麻さんの言葉に背筋がヒヤリと冷える。
「…い、いえ、初対面ですよ。このお舗に来たのも2度目ですし…」
焦りから少し饒舌になってしまう。
私が否定するも腑に落ちない表情でうーんと首を捻る志麻さん。
「なんかAの顔見覚えあるんよなぁ。」
それもそうだろう、あの時バッチリ目があっていたし。
郭では廊下鳶は重大な罪だとあの本に書いてあった。つまり昨日の所謂"覗き"行為がバレてしまえば私は大変不味いのだ。
とはいえ浦田さんにはもうバレているのだけれど。
「はは、そうですかね、」
内心ヒヤヒヤして目が泳いでしまう。
浦田さんが黙ってくれていたとはいえ、覗いてしまった張本人である志麻さんも許してくれるとは限らない。
思いっきり目をそらす私を納得行かない様子で凝視する彼はふーん、と零す。
「まあいいわ、てかAはお酒飲めるん?」
「あ、実は飲んだことなくて、」
志麻さんが諦めてくれたおかげで話題が変わったことにほっとし、彼がお酒の入った瓶子を手で制せばこちらに寄越していたのを戻す。
「なんや、残念。」
「すみません…。」
(お酒、飲みたかったのかな)
それなら私を気にせずに飲んで欲しいと思うが、客が飲まないと彼らは飲んではいけないのだろうか。
それなら少し飲んでみようか、少量なら大丈夫だろうと戻された瓶子をじっと見つめる。
「んー…Aに思いっきり強い酒飲ませたかったんやけどなぁ。」
「…は?」
耳に入ってきた信じ難い言葉に顔を歪める。
(一体この人は何をする気だったんだ、)
「えーちょっと酔わせて良いことしようとしただけやで?」
私の心を読んだかのように言う彼にぞく、と背筋が震える。
「なん、ですかそれ」
自分と対照的ににこにこと笑っているだけの志麻さんに、飲んでいたら今頃どうなっていたか、と顔が強ばる。
冗談のつもりなのかもしれないが、この人なら何かやりかねないと少し端によって彼との間に距離をとる。
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はる - 初コメ失礼します!!この小説大好きです!!これからも頑張ってください!!応援しています!! (11月30日 9時) (レス) id: 41084e4d77 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - すいさん» すいさん、読了とコメント、ありがとうございます〜!更新は不定期ですが、皆様のご期待に応えられるようコツコツ頑張りたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします^ ^ (2022年10月13日 0時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
すい - 一気読みさせていただきました〜!!めちゃくちゃ面白いです!!続きお待ちしてます!! (2022年9月18日 0時) (レス) @page6 id: 7c45a007b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - がむしろさん» ありがとうございます!とても励みになります!これからも応援よろしくお願いします(^^♪ (2022年5月28日 15時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 翔さん» いつもお読み頂きありがとうございます!更新コツコツ頑張りますねι(`・-・´)/ (2022年5月28日 15時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍瑠 | 作成日時:2020年5月9日 10時