自由人 35 ページ37
『………はぁ。』
誰もいない図書室に、私のため息がやけに響く。
……私の努力は、無駄だったのだろうか。
別に、褒められたいわけじゃないけど。
一度くらい、『私』じゃなくて『私の努力』を見てくれてもいいじゃないか。
一度くらい、『頑張ったね』って言ってくれてもいいじゃないか。
それを望むのは、いけないことなの？
ノートが契れそうなくらい書き込んだことも、
睡眠不足で倒れそうなくらい頑張ったことも、
バイトを休んでまで、勉強したことも。
全部、私だから当たり前なの？
『……何も知らないくせに。』
手の平に爪が食い込む。
この思いを、ぶちまけたい。
何かに、ぶつけたい。
…………となると、あれしかない。
私を毎日支えてきたもの。
私を毎日元気づけてきたもの。
ゆっくり、深呼吸をする。
呼吸を整えたら＿＿＿『歌う』。
『………もう声は届かないのね。
まるで透明になったみたいだわ。』
この歌は、「林檎売りの泡沫少女」。
悲しい時に、よく歌う。
『そして誰もが知らぬフリをした。
なぜなら少女は………』
そこまで歌ったところで、強く腕を捕まれた。
びっくりして後ろを見ると、及川先輩がいた。
……聞かれてた？
『ちょっと人の独白聞かんといてくださいよぉ。』
及川「シリアスの欠片もないね！？」
『やっぱり聞いてたんですね。
いつからですか？』
及川「ため息のところから。」
まるっと全部じゃねえか。
『……まあ、今回に限ったことではないんですけどね。
だから、あんま気にしないでいいです。
私も、そこまで傷ついたわけじゃないんで。』
人に心配されていると思うと、ついおちゃらけた話し方になる。
私の癖だ。
『帰りましょ！授業始まりますよ！
本当に気にしてませんから！ね？』
及川「………うん。」
及川先輩が頷いたのを確認してから、図書室を出ようとした。
及川「あ、そうだ。」
『？』
何かを思い出したかのように、及川先輩が声を出す。
振り向いた途端、頭に優しい感触が乗った。
及川先輩の手だ。
いきなりすぎて、しばらく停止する。
及川「＿＿＿＿＿頑張ったね。」
………！
嬉しかった。すごく。
人に褒められるなんて、初めてだ。
『………ありがとうございます！』
モヤモヤが、なくなった気がした。
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作者名：紺野いろは
| 作成日時：2016年12月26日 18時
