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カタリ、なにかが落ちた音がする。それは、ヒカルさんが持っていたペンを床に落とした音だった。
ヒカルさんは……いや、レンさんもウタさんも俺を見つめて目を見開く。口を震わせながら、ヒカルさんが小さく呟いた。
「……メシア」
「へ?」
「メシアだよ、彼は」
そう言って、ヒカルさんが俺の方に歩いてくる。優しく俺の肩に手を置いて、真剣な顔でヒカルさんが言った。
その瞬間が、きっと。……俺のターニングポイント。なら、うだうだ考えてないで飛び込むべきだよな。
俺は3人を見据えて、口を開いた。情けなく足が震えるけど、そんな場合じゃない。
「……俺、モデルになりたいんです。えっと……N.Y.のランウェイを歩く、1番のモデルに!」
つっかえながらもそう言えば、3人は黙って目を合わせた。……ダメ、なのだろうか。
思わず顔を俯かせれば、かすかな笑い声。ちらりと顔を上げれば、俺を見て微笑むヒカルさん。それから、ウタさんとレンさんの姿があった。
「良いじゃないか。そういうの好きだよ、ボクは」
「んー、これは良い被写体だね。腕が鳴るよ」
「良いじゃん。ミナトさん、よく見つけてきたね」
3人が口々に言って俺を見る。後ろの方でミナトさんが頭をかいて笑っていた。
パシャリ。いきなりフラッシュが焚かれ、思わず目を瞑る。レンさんがカメラを構えたまま、にっこりと笑った。
その写真を眺めて、ウタさんがにんまりと笑みを浮かべる。サラサラと手帳のようなものに何かを書きこんだ。
「シュウに思わぬライバル出現か。今年の【アリス】はどっち?……うん、これで行こう!」
「おぉ、良いね。……ねぇキミ」
ウタさんの手帳を眺めて笑うヒカルさんが、俺を見つめた。一瞬で真顔になった顔、声色に思わず背筋が伸びる。
そんな俺に「取って食いやしないよ」と声が降ってきて、ヒカルさんの手が頬に伸びる。
真っ青な瞳と目が合えば、何もかもが見透かされる気がした。
「ファッション界は、個性で殴りあって生き残ったものが勝ちのサバイバルゲーム。普通なんて以ての外。好きを好きなだけ、それがボク達の信念だよ」
「はい」
真っ直ぐな言葉が、スッと胸に入った。頷けば、ヒカルさんは笑って俺の胸をとんと叩いた。
顔を上げる俺に、いたずらな笑みを浮かべて。ヒカルさんは言った。
「キミにインフルエンサーになって欲しい」
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紫鐘(プロフ) - 文字数確認の為、一度非公開で保存しました (2022年9月23日 3時) (レス) id: 1589028db0 (このIDを非表示/違反報告)
YUI*p(プロフ) - 紫鐘さん» どうぞ〜!楽しみにしてます、頑張ってください! (2022年9月23日 3時) (レス) id: 804b0d7da1 (このIDを非表示/違反報告)
紫鐘(プロフ) - 更新します (2022年9月23日 3時) (レス) id: 1589028db0 (このIDを非表示/違反報告)
YUI*p(プロフ) - 音朱(おとあ)さん» 読んでいただきありがとうございます〜!音朱さんの文章、楽しみにしてますね! (2022年7月29日 17時) (レス) id: 804b0d7da1 (このIDを非表示/違反報告)
YUI*p(プロフ) - 凛導碧さん» 読んでいただき、ありがとうございます!拙い文章でしたが、喜んでいただけたなら良かったです…!! (2022年7月29日 17時) (レス) id: 804b0d7da1 (このIDを非表示/違反報告)
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