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もう、夏が来たらしい。
風が熱くなって、頬を撫でて余韻を残して汗となって肌の上を覆った。
夏は、中庭をがらりと変えて、景色を蜃気楼にして揺れている。
夏休みが楽しみだなぁ。と思っても受験生というものに入ってしまったし、部活もあるし、もう有意義に過ごせる時間も少ないだろう。
憂鬱だ。と本音を零すと耳に刷り込まれた声が聞こえた。
「だーれだっ」
不意に腰辺りに手が回ってきて、一気に距離が近くなる。楽しそうな声音に自分も伝染して口角が上がってしまう。
「A？」
「違いまーすっ」
「嘘つけー！」
腰に回っている手に触れながら、彼女の方へ振り向こうとすると、彼女はそれに気づいたのか俺と一緒に彼女もそのままついてきてしまう。
「ねぇ、絶対Aでしょ？」
「ふふふっ」
回りながら、ふたりで中庭の芝生を踏みならした。
可愛らしく笑った彼女は、手を放し、俺と向かい合う。
にこにこと絶える間もなく終始笑顔な君。とても愛らしく感じるのだ。
「ねぇ、孝支くん」
「何？」
「お時間空いてますか？」
「空いてますよー」
どこで覚えたのか知らない誘い方に、彼女の目線に合うように、少ししゃがんで応えた。同い年なのに、たまに出る直らない敬語口調だとか、暗い蜂蜜色のふわふわとした髪がわたあめのように見えたり、とにかく可愛い。
きらきらと輝く眼を持って、彼女は用件を話し出した。
「あのね、中庭の外れに向日葵を植えたの」
「え、それって植えていいの？」
「よくわかんないから、秘密！」
「なんだよ、それー」
「あ、でねでね。向日葵がね、咲いたの！」
その言葉を言った時の眼といったら、どんな言葉でも表わせられないぐらい、綺麗で純粋だった。
思わずぐらつきそうになった思想を止めて、手を引かれた俺は、足を彼女の方へ向き直す。
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作者名：結花 | 作成日時：2016年3月26日 22時
