【原神】仙人でも夜叉でもない。凡人でもない。 (ページ21)

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星は去っていく重雲を眺めた。

ウェンティも去って行くと、その場には事情を知ってる者だけとなった。

鍾離も、旅人はひとりで大丈夫だろうと言い放つと散歩に行くと言って去っていった。

旅人は海灯祭をもうしばらく楽しむと別れを告げ…そして星と魈だけがその場に残った。

2人も外へ向けて足を進める。

「魈、今年の海灯祭はどうだった？」

「…悪くなかった」

「そっか。それはいいことだね。僕も今年はとても楽しかったよ。なんせ魈が街中まで下りてくるなんて思わなかったから」

「あの姿は実に滑稽だったがな」

「…」

星は少しむくれたような、バツの悪そうな顔をした。

ふと、屋台から馴染みのある香りがする。

「魈もこのあと妖魔退治でしょ？」

「ああ」

「その前に銅雀さんのところに行かない？
海灯祭だしチ虎魚焼き、持って行ってあげよう」

「そうだな」

そのまま匂いのする屋台へと歩いていく。

「おじさん、チ虎魚焼きひと…3つ！」

「あいよ！」

焼き立てを提供してくれるのか、具が刺さった3本の串を網に乗せて焼いていく。

「…3本もいらないんじゃないか？」

「みんなで食べようよ。その方がきっと喜ぶって」

お前は会ったこともないだろう…と思いながらも、今日の経験を踏まえてかそれ以上のことは何も言わなかった。

「お待ち！チ虎魚焼き3本！」

「ありがとー」

香ばしい匂いのするそれを持って街を出ると、冷める前に、と銅雀が祀ってあるお寺まで仙術で移動した。

銅雀のもとへチ虎魚焼きをひとつ供えたあと、2人は屋根の上でそれを咥える。

「ここからも霄灯は見えるのだな」

「…そうだな」

街から出たため、星の口調は魈と同じものとなっていた。

「ともすると、この国の民の願いは銅雀にも届いているのだろうか」

「どうだか」

魈はとっくに食べ終わえ、闇の中映える目は瞼によって隠されていた。

きっと、民の願いへと耳を傾けているのだろう。

星は霄灯から民の願いを感じることができない。

なぜなら仙人でないから。

毎年のことながら、星はこのことを思い知るたびに表情を沈める。

霄灯を眺めるのをやめ、隣にいる魈の顔を見つめる。

「なにかあったか？」

「いや」

「そうか。ならいい」

魈は霄灯へ顔を向け直し、星は屋根に寝転んだ。

2人して目を閉じる。辺りは緩やかに吹く風を受けてさらさらとなる葉と沈黙の音のみ。

しばらくして、何も言うこともなく2人は仙術で去っていった。