episode９６ ページ6
「正確には、ほぼ毎日のようにあるアイドルに会いに来てるみたい」
ジュースを再び飲んで、「ん、おいしい」と嬉しい言葉を二度かけてくれる凛月くんに、私は申し訳なさを感じながら答えた。
「えっと、すみません心当たりがなくって、」
私は首を傾げる。
凛月くんは「あ、そっか」と納得したような表情になった。
「君そういうの詳しくないんだよね。言っても分からないかも」
「覚えていらっしゃったんですね……」
以前彼らが番組の撮影でここに来た時、周りが歓声を上げる中、唯一普段通りに過ごしていた私を見て、オレンジ髪の──レオくんが「お前、いちばん元気だな！ 気に入った！」ってツーチェキの使命をくれたんだ。
それを聞いた同期の子が「この子アイドル関連のこと何も知らないんですよ〜♪」とかいう若干失礼なことをぽろっと言ったんだっけ。
「で、でも友達がドルヲタで結構最近は覚えてきたんですよ。」
「ふ〜ん、そっか。」
凛月くんはドリンクに刺さったストローをくるくると回し、「もうそろそろチャージ時間終わるね」とつぶやいた。
私はハッとして時計を確認すると、確かに彼が頼んだ分の時間はもうすぐで終了する。
「延長、の方一応30分単位でできますが、」
一応マニュアルがあるので延長するかどうかは聞かなくてはいけない。
私の質問に、凛月くんは首を横に振った。
「お客さん増えてきたし、もう少しちゃんと話したいから──勤務終わったら、ESにあるシナモンってとこに来てくれない？」
「！」
真っ直ぐ見つめられ、たじろぐ。
「き、今日のシフトは……あと1時間でおわります」
「じゃあ2時間後に来て」
今度はこちらを見ることも無くスマホ片手に何かを打ち込んでいる。
でも、と私は言う。
「お客さんと、店外で会うことは禁止されてて……、」
Aちゃんが例外であり、ルール違反であることは仕方ないけれど、2人はもう恋人になったのでそこまで咎められることはなかった。
それでも、店のルールが変わることは無かったため、相変わらずNGのままだ。
「え〜、じゃあメイドとしてじゃなくてプライベートの用だとしたら？」
「そ、それならギリギリ、かな？」
細かいことは分からないけど！
そういえば、Aちゃんも「ご主人様としてじゃなくて推し……い、いや1人の男性としてお会いしてました！」って店長とオーナーに説明してたっけ。
「あ、でも。お店出る瞬間までは、俺はご主人様だからね〜」
続く
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作者名：咲愛 | 作成日時：2023年10月7日 18時
