episode３６ ページ38
そのあとは、びっくりするくらい普段の接客と変わらなくて。
相手が泉くんっていうイレギュラーな点はあったけれど、どうしてだろうか、自然に対応できていた。
多分、泉くんが気を回してくれているから。
私が仕事に集中できるように、最低限しか話しかけてこなかったし、チェキの注文もなかった。
ごく普通のお客さんを、演じてくれた。
さっきみたいに腕をつかんできたり、「Aに会いに来た」なんていううれしい言葉をかけてくることもなかった。
そして、勤務終了を迎えた。
スタッフに挨拶をして、着替えた私は店の外に出る。
そこで待っていてくれていたのが、
「ん、おつかれさま」
「あ……りがとう。泉くん」
ずっとずっと大好きな人。
数多くいる"お姫さま"にじゃなくて、私だけにきれいなきれいな微笑みを向けてくれている。
胸がきゅっと痛む。
うれしくて、泣きそうで、幸せでいっぱいなのに。
こんな感情をくれる人に、私は嘘をついている。
ファンを混乱させて、結果的に泉くんに迷惑をかけてしまう。
──もう、ズルはやめよう。
いまさらただのファンに戻れるとは思えないけれど、罪悪感を抱えたまま接し続けることに抵抗を感じた。
プライベートの泉くんと会ったのは、これが二回目。
たった二回だけど、結論を出すのには充分な時間だった。
すう、と息を吸う。
大好きな人に、嘘をついてまで会いたくない。
大好きだから、ずっと応援してきたから。
その大事な思い出を、自分の手で滅茶苦茶になんてしたくない。
「この前話したことなんだけど……」
「──泉くん、私の話を少し聞いてくれませんか」
まっすぐ瞳を見据えて、遮るようにして言った。
場所変えましょうか、と少し歩く。
泉くんは驚いたようだったし、何か言いたそうだったけれど、私の意を酌んでくれたらしく、黙ってついてきてくれた。
その背筋もぴんと伸びていて、「ああ、この人は海外でも活躍するプロのモデルでもあるんだよなあ」としみじみした。
やってきたのは、ESの近くにぽつんとある小さな公園。
公園といったけれど実際には遊具はなく、ベンチと街灯、少しだけスペースが広がっているだけ。
ES建設のために消えた思い出の公園の、ほんのちょっとだけ残った面影だった。
「ねえ、ここって……」
きれいな目をぱちぱちしながら泉くんがつぶやく。
何かあったのか、なんて思ったけれど、私は心に決めたことをそのまま口にした。
「私、ずっと言えなかったけど──泉くんの、ファンなんです」
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咲愛(プロフ) - ﾂｷさん» コメントありがとうございます！始まった頃から読んでいただけているとは、大変うれしいです！続きは本日中に公開出来たらと思ってますので、ぜひぜひ今後ともよろしくお願いします！ (2023年2月22日 16時) (
レス) id: 8b89f62398 (このIDを非表示/違反報告)
ﾂｷ(プロフ) - この作品が始まった頃から楽しく読ませて頂いてます！毎日更新が楽しみで素敵な作品に出会えたなと思いました！続き楽しみに待ってます！ (2023年2月21日 22時) (レス) @page50 id: 56454ebf31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：咲愛 | 作成日時：2023年1月27日 12時
