八話 ページ9
街に来たは良いが、所々破れた着物に、ボサボサ頭の彼女のあまりにもみすぼらしい姿はかなり人の目を引いていた。
じろじろと怪訝そうな視線が自分に当たっているのを感じている彼女は、更にイライラした。
そしてその怒りが爆発しかけた寸前、そこのお嬢ちゃん!と陽気な声がかかって来た。
「あ?」
「どうしたんだいその格好は!髪もそんなんじゃあ、せっかくの良い女が台無しだよ?
ささ、どうだい、ここらで着物でも見ていかないかい?」
そこにいたのは小太りした年を食った女。
ベラベラと自分を褒めちぎった挙句、パン、と一度手を鳴らし、人の良さそうな笑顔を浮かべながら彼女は、戸惑う自分をその肉付きの良い手でぐいぐいと引っ張り、店に引き摺り込んだ。
「お、おい!オレは別に、服なんか…!」
「はいはいそう言わないの!服を変えるだけで、嫌な気分も飛ぶものなのよ!」
「……、」
結局有無も言う間もなく店の奥の座敷に座らされると、ちょっと待っててね、と女は笑顔を浮かべたまま誰かの名前を呼びながら店の更に奥へと行ってしまった。
あまりの急な出来事にいまだ半放心状態の彼女は、そのままぼーっとしていたが、暫くしてもの凄い勢いの足音が聞こえ、びくりと肩を震わせた。
見るとそこには、自分とあまり歳が変わらないような娘が、先程の女とともにいた。
「まぁ!!なんてみすぼらしい姿!!こんなの始めて!」
「ええ、頼んだわよ!」
「ちょ…、」
「いいこと!?これからあたいが貴女を可愛らしくしてあげるわ!だからそこから一歩も動くんじゃあないわよ!?」
何かを言わせることなく凄い勢いで店に並ぶ服を選び始めた娘に呆然としていると、最初にであった女が、あたしの娘さ。と誇らしげに言った。
「アンタ…、あのムスメの母か?」
「ええ、そうだよ?母が娘に、娘じゃないなんて言うわけがないだろう。」
そんなことを言う奴ぁクズだね!ゴミ! と、さり気なく毒を吐いた女に、自分は目が離せなかった。生まれた時から、親も家族も故郷もなかった自分にとって、母子とはどのようなものかは到底理解し難い存在だった。
しかし、いま目の前にいる二人は、会話からもわかるとおり、互いが互いを信頼し、愛し合い、母は子に慈しみの目を向けている。
「(こういう…、もんなのか?)」
キラキラした笑顔で着物を持ってくる娘を微笑ましげに見つめる女。
幸せそうな二人なのに、なぜか殺意は湧いてこなかった。
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まゆ - 面白かったです^_^ヒロイン、強くて、かっこいいですね^_^市ちゃんとのやりとり、ほのぼのしていて癒されました^_^続きが、すごく気になります^_^これからも、頑張って下さい^_^ (2017年11月25日 22時) (レス) id: 8c0a96a096 (このIDを非表示/違反報告)
狩有(稀にアーロ)(プロフ) - 雅姫さん» アーロです!殺戮シーンは狩有が担当しますが、やっぱエグいですよねぇ…。どこでそんなやり方を仕入れたのかが恐ろしくって聞けません(汗) 歪んだ二人だからこその異常なほのぼのが生まれるんです。いやぁ、BASARA4のお市可愛いなぁ(( (2016年8月31日 15時) (レス) id: fa9e2a923d (このIDを非表示/違反報告)
雅姫 - うわああ!主人公、殺し方が恐い!だけど、市とのやり取りにほのぼのしたのは何故だろう…? (2016年8月30日 21時) (レス) id: 471bbd1612 (このIDを非表示/違反報告)
狩有(稀にアーロ)(プロフ) - 百久一目さん» はい!これからも主人公の心の変化などに、乞うご期待です!(笑) (2016年6月26日 16時) (レス) id: fa9e2a923d (このIDを非表示/違反報告)
百久一目(プロフ) - わァい!!(呵呵大笑)では嬉々として怡怡として楽しみにしさせて戴きますね!!(感性がズれていて申し訳ありません) (2016年6月26日 15時) (レス) id: 421761368c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:狩有&アーロ | 作成日時:2016年5月6日 1時