十一話 ページ12
着物を購入して、かれこれ3回 陽と月が昇って沈んで…
いつまで経っても、お市は来ない。
「……んだよ。結局、オレだけかよ…」
今日も誰も居ない場所を見ては、ポツリと呟く。
最初こそイライラしたものの、今の彼女の声は どこか弱々しく、震えていた。
今の今まで、ずっと誰も隣にいなかった。
ずっと一人で、それが当たり前だと思っていた。それが普通だと。
しかし、お市と出会ったことでその思いは変わっていった。
初めて人の温もりを知った。
初めてまともに飯がうまいと思った。
初めて着物を買って、贈り物をしようと思った。
初めて、寂しいと思った。
何時からか、気づけばひたひたと滲みてくる水のように枯れかけていた草花が水を吸い上げるかのように、互いの存在が互いに染み込んでいた。
「………早く来いよ…。」
ぐ、と抱えた膝に顔を埋めて彼女が呟いた声は、風にもかき消されるほど弱々しいものだった。
寂しい 寂しい …
そう思っているうちに、だんだん鼻の奥がつんと痛くなり、目頭が熱くなる。
ボロボロとなにか熱い水が目から溢れて、それを不思議そうに手で拭う。
「ん、だよ…これ‥っ!」
ふわ、と頭に何かが乗る感覚。
『それ』は決して温かくなくて、それでも優しく、彼女の頭を撫でた。
不意に吹いた風に運ばれてきた嗅ぎ覚えのある香の匂いに、迷うことなく振り返り、『それ』を掴んで駆けていく。
確かに、そこに居た。
いつも以上に虚ろな目をした彼女はゆらゆらと揺らめく黒い『それ』らを辺りに漂わせていた。
しかし今はそんなことなど関係なくて、待ち人の腕を手繰り寄せ、抱きしめた。
初めて自分で触れた彼女は柔らかくて、冷たかった。
「今まで…何処、行ってたんだよ…っ!!」
「……うん、」
「オレの髪、切るんだろ…、」
「…うん。」
だんだんと震える声と腕に気づいたお市は、彼女をそっと抱きしめ返す。
ぐす、ぐすと聞こえる嗚咽と、初めて自分から触れてくれた喜びに、頬が緩んだ。
「もう…オレを、一人にしないで……市…、」
「うん……ごめんね?」
「……謝んな、ばァーか…。」
そしてお市と 彼女をおぶさった殺人鬼は、そのまま夜の山を下って、烏城へと向かった。
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まゆ - 面白かったです^_^ヒロイン、強くて、かっこいいですね^_^市ちゃんとのやりとり、ほのぼのしていて癒されました^_^続きが、すごく気になります^_^これからも、頑張って下さい^_^ (2017年11月25日 22時) (レス) id: 8c0a96a096 (このIDを非表示/違反報告)
狩有(稀にアーロ)(プロフ) - 雅姫さん» アーロです!殺戮シーンは狩有が担当しますが、やっぱエグいですよねぇ…。どこでそんなやり方を仕入れたのかが恐ろしくって聞けません(汗) 歪んだ二人だからこその異常なほのぼのが生まれるんです。いやぁ、BASARA4のお市可愛いなぁ(( (2016年8月31日 15時) (レス) id: fa9e2a923d (このIDを非表示/違反報告)
雅姫 - うわああ!主人公、殺し方が恐い!だけど、市とのやり取りにほのぼのしたのは何故だろう…? (2016年8月30日 21時) (レス) id: 471bbd1612 (このIDを非表示/違反報告)
狩有(稀にアーロ)(プロフ) - 百久一目さん» はい!これからも主人公の心の変化などに、乞うご期待です!(笑) (2016年6月26日 16時) (レス) id: fa9e2a923d (このIDを非表示/違反報告)
百久一目(プロフ) - わァい!!(呵呵大笑)では嬉々として怡怡として楽しみにしさせて戴きますね!!(感性がズれていて申し訳ありません) (2016年6月26日 15時) (レス) id: 421761368c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:狩有&アーロ | 作成日時:2016年5月6日 1時