殺し屋やってるらしい。2【浦島坂田船】

killing night 77 ページ29

「好き」
その一言を彼女の前で言ったことは初めてだった。
それでも彼女は僕の好きが愛情であることに気がついていない、きっとそれがうらたんだったら彼女は僕たちが見たことのないような顔をするのだ。
人に好意を寄せるとはそういうことなのだ。
相手の一つ一つの言葉に敏感になる。
僕だってきっとそうだ。

でも彼女は僕の言葉では顔を変えなかった。
きっと彼女の頭の中は今うらたんのことでいっぱいなのだ。
僕は彼女の中の優しい家族のような存在でしかない。

Aが僕になりたいと言った時、嬉しいと同時に寂しさが僕を覆った。
僕はAが僕になってほしいわけじゃなく、僕がAになりたいわけじゃなく、ただAの隣を歩ける存在になりたかった。

本心を言えば僕をそういう風に見て欲しかった。
うらたんではなく、僕が。

僕の想いはきっと叶うことはないのだ。
両片思いのこの人たちをまどろっこしいから早くくっつけばいいと考える僕とまだAは誰のものにもなって欲しくないという気持ちで左右されていた。

でも今Aを慰めてあげられるのはうらたんじゃない。
Aは今うらたんを想って涙を流しているから、今はうらたんには会うべきじゃないだろう。

僕たちがAを船に乗せたからAが恋や愛を知ってしまったのだろうか、Aがうらたんと出会わなければ恋や愛を でAが苦しむことはなかったのだろうか。

例えそうでもこれは運命だったのだ。
逆らえることはないしAがいなければ僕はきっと生きられない。

おかしい、叶わないってもう確証がついたのに、こんなにも君への想いを断ち切れない。

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