欲しい ページ11
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彼の好きなものはなんだろう。
トマトジュース、朔間凛月、それとも別のものなのか。誕生日のことを忘れていた訳では無いのだが、何を贈ればいいのか分からず今日に至ってしまったのである。今日一日唸りながら、考えていたが結局何も浮かばないままついに、放課後になってしまった。
「何か、忘れてるだろ」
「れ、零さん」
少しばかり、黒い笑みを浮かべる彼が立っていた。まずい、と思い廊下を駆け抜ける。途中、蓮巳に怒られたような気がしたけれども、そんなことを考えてる暇なんてない。捕まったら一巻の終わりだ。階段を駆け上がり、駆け下り、廊下を走り、中庭を走り、辿り着いた先は屋上だった。
何でこんなにも逃げ回ったのか、自分にもよく分からない。兎に角、逃げなきゃと本能的にそう思ってしまったのだろう。ガシャンと、自分の背中の網に手をかける彼の姿が、そこにあった。
「何逃げてんだよ」
「鬼ごっこ…?」
こんな時に鬼ごっこなんてする馬鹿はいないに決まっている。自分で言っておいて、ふざけた言い訳を言ったことに軽く後悔をした。彼の顔は益々険しいものになってきて、今度こそ、本当のことを言わなければ殺されるのではないか、と思うほど。
「とぼけたこと言ってんじゃねぇよ」
「違う違う違うんです、あの、っ!」
彼の威圧に負けて、誕生日プレゼントを何も用意していないことを打ち明けた。ごめんなさい、と顔の前で手を合わせぎゅっと目を閉じる。何か言われると思い、びくびくしていると聞こえてきたのは笑い声であった。
「そんなことで逃げてたとか馬鹿じゃねぇの?」
「いや、だって、」
腹を抱えながら、わざとらしく笑い話す。こっちは真剣に悩んでいたのに、何だか不服である。「何だ、そんなことか」と安心したようにぼそっと独り言を呟いた。
突然、体を引き寄せられ、彼に抱きしめられているのだと理解した。思っていたよりもキツく抱きしめるので、ちょっと痛かったりする。彼の息がが、丁度耳元にかかってこそばゆい。囁くように、「嫌われたかと思った」と小さな子供のように、ぽつりと零した。
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作者名:あんさんぶるParty! x他3人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2017年10月31日 20時