忘れられない １

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５時にパートさんを家に帰して、７時になったから、ほかの新入社員の子を、帰した。
松本さん、帰ってこないなあ。

雑貨の棚をぼおっと眺めてたら、台車のごろごろって音がして、松本さんが戻ってきた。

「お帰りなさい。時間かかりましたね」
「ごめん。今日中に終わらせるぞ」
松本さんがスーツのジャケットを脱いで、腕まくり。
ネクタイを解いて、急いで箱を開ける。

「A、そっちのネクタイ宜しく」
「はい」
「おれこっちやる。……全部できてるじゃん。ありがとう。さすがだな」
「……」
「見た目はぼんやりしてるけど中々てきぱきしてるってほんとだったんだな」

あれ？もしかして、褒められてる？
見た目はぼんやりって、何。
ちょっと、目が合う。

「綿菓子みてーな女」
それだけ言ってぷぷっと笑う。

……綿菓子？あなたは南極店長ですよ。皇帝ペンギンですか。ぴったり。
ちょっとだけ、ふふって笑ったら、松本さんが、優しい顔で、笑った。

「全然皆と話せなかったけど。いい店になればいいな」

ぼそっと呟く横顔は、南極店長らしくない。
「がんばります」
「よろしくな」

こっちを見ないで、言う。照れてるのかな。
「そこ。10分で終わらせて、次靴下行って」

おお。冷たいのもどったー。
慌てて手を動かす。

結局、全部終わったのは、10時半くらい。
下の警備室の前で、櫻井さんと会う。

「あ、お疲れ様です。松本さん、間に合いました？」
「もちろんです」
「たのもしいなー」
あははって笑う、櫻井さん。

「あの、そこに行きつけの店あるんですけど、一杯いかがですか？」
櫻井さんがちょっと微笑んで、言う。

「行きたいんですけど、明日は早朝から本社で会議があって……」
「Aさんは？」

おっと。この人の下の名前でいきなり呼んできた！
どうして流通業の人ってこんな感じなんだろう。

松本さんが私をちょっと見下ろす。
「すみません。俺がいるときにお願いします」
「あ。ボディガードだ。先に松本さんを口説かないと食事に誘えない感じ？」

櫻井さんがいたずらっぽく笑う。
「すみません。一応、こいつが悪さしないか監視するのも仕事でして」
松本さんがウケケって笑う。
「悪さってなんですかぁ……」
「酔っ払って管巻いてマネージャーさんに迷惑かけたりすることだな。失礼します」
「はい。お疲れ様です。あさってのオープン、宜しくお願いします」

そう言って、暗闇に、消えていく。

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