忘れられない １

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「あのさ」

雅紀くんが、ぽつりと言う。

「ん」
「俺フラれちゃったのかなぁ」
「ん？」
「櫻井さんと、仲良くなるにはどうしたらいいかなって、言われちゃってー」
「……」

え？ゆーちゃんが、雅紀くんにそんなこと聞いたの？

残酷だ。
残酷すぎる。
雅紀くんがゆーちゃんを好きなんて、すっごい有名な話なのに。
本人も、それを知ってるくらい。

「じゃあさ、お昼一緒にどう？とかさ、聞いてみたら？って言ったの」
「……」

あれ？私、早とちりした？
あれ？

思わず、顔を上げる。
「泣きすぎー！」
雅紀くんがあははー！って笑う。

「辛いね、それ……好きな人の恋愛相談なんて、最悪……」
「最悪の気分だよー」
雅紀くんが、あー、って感じで宙を見る。

「そしたらちょうど翔ちゃん来てさ、Aちゃん連れて行っちゃうでしょー？」
「……」
「Aちゃんも、スーツの裾をつかんだりしてさぁ、可愛いの、ふたり。お似合い」
「……」
「しっかりものと、天真爛漫な感じの二人がね、当たり前ーな感じでご飯いくんだよ？彼氏と彼女みたいにさ」

「……うん」
「俺もAちゃんと約束したのに、翔ちゃんとさっさと行っちゃうしさー」
「……お邪魔しちゃわるいなと思って……お昼誘ってるの見たから、二人で行くのかなとか、思って」
「……あのさ、先約Aちゃんなのに、他の人誘うわけないよね？」

そうだった。
雅紀くんは、そうだった。

「ごめんね……雅紀くんを裏切って櫻井さんを選んじゃった」
「そーだよー！相談のってって言ったのにー」
「ごめんね？」
「許すー」

にこにこって笑って、私の頭をぐしゃぐしゃって撫でてくる。
「やだー、やめて！」
「お仕置きー」

私だって、ちゃんと特別なんだ。
そうだった、私だって。

「ね、相談ってなんだった？」
「あのね、今度デートしてよ？」
「……」

え？いま何て？え？
「デートしよ？」
「さ、誘う相手……まちが……」
「シュミレーション？シミュレーション？」
「シミュレーション？」
「とにかく！練習しようよ、誘うとこからー！ほら行くよ、……んんん」
喉を整えて軽く息を吸い込んでる。

「今度休み合うとき、俺とデートして下さい」
「……うーん」
「ね、Aちゃん、今度遊びに行かない？」
「……うー……」

なにこれ。
「次休み合ったらさ、映画でも見に行かない？」
「映画……」
「今度二人とも休みの時ね、水族館でもいこうよ？」

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