王子の茶番劇(01/19) ページ34
ファイルを手にして、やっと資料室を出る。
資料室を出たら前の倉庫に警備員がいてお疲れ様ですと声をかける。
「A、汚れちゃったね」
「大丈夫だよ」
なんだこの茶番。
エレベータに乗り込んで、ふぅ、とため息を吐く。
「帰り、またあの席で待っててよ」
「はい」
エレベーターから先に櫻井さんが降りて、バイバイ、って感じで可愛く手を振った。
ファイル持ってるから微笑んで頭を下げる。
周りから見たら爽やかで素敵な王子と、ゆるふわの癒やし系のOLが仲良くしてる、って感じに見えてるかもしれない。
まさか資料室で睨み合ってたとか誰も想像つかないだろうな。
「戻りました。このファイルは部長ですか？」
「ラボの中にいるから持っていって」
課長がそう言った。
「はい」
そのままくるんと踵を返したら、ちょうどトイレから出てきた石田くんと目が合う。
「ファイル、手伝う？」
「大丈夫！」
「あーあ、髪、ホコリついてる」
「うそーやだー」
石田くんが私の髪のホコリを取ってくれる。
「ありがと」
「あ、麻倉さん」
ラボの前に中西さんがいて私達を交互に見る。
「麻倉さんが行ってきてくれたんだ、ありがとう！……で、石田くんと仲良しなの？社内でいちゃついちゃだめだよー」
「そんなんじゃないですー！同じ派遣なので……」
言葉を濁してたら、中西さんが石田くんをみて、いたずらっぽい表情で言う。
「麻倉さんって櫻井さんとイイ仲だから、石田くんは麻倉さん狙っても絶望的だよー」
「え？そうなの？」
石田くんが私をぱっと見下ろす。
「櫻井さんとはお友達です……」
「へぇ……」
石田くんが複雑な目で私を見た。
「あ、ファイル持っていかなきゃ」
ちょうどその時ラボが開いて、中から部長が出てきた。
「あ、部長！ファイルを」
「麻倉さんが行ってくれたの？よくわかったねあの場所」
「櫻井さんが教えてくれたので」
チッ、と小さな小さな舌打ちの音がした。
誰の舌打ち？
振り返ったら中西さんと石田くんが笑い合いながら開発企画部に戻る。
「ファイルもらうよ」
「部長、このラボのパスワード前と一緒ですか？」
「うん」
部長がふ、と眉を寄せる。
「いつから変えてないんですか」
「もう3ヶ月くらい？」
「毎月変えた方がいい、と櫻井さんが仰ってましたよ？」
「……櫻井さんが……」
部長がなんとも言えない顔で棒立ちになってる姿に一礼してデスクに戻る。
……この際櫻井さんの名前、利用してやろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2803人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
susakinyanko(プロフ) - 駅前のハトがツボ過ぎます。死ぬかと思った笑 (12月15日 15時) (
レス) @page41 id: 9ec95cf02d (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - 面白い！眠気がとんだよー！よしのさん好き(^^) (2020年1月30日 10時) (レス) id: 12e1cc5b48 (このIDを非表示/違反報告)
花乃(プロフ) - こんにちは。やっぱりよしのさんのお話好きだー！！と叫ばせていただきます(*´∇｀*) (2020年1月26日 17時) (レス) id: 95a7b7882e (このIDを非表示/違反報告)
ちこ(プロフ) - こんにちは。よしのさんの新作ですね。ゴルゴの回まで一気読みしてしまいました。とっても楽しいです！更新楽しみにしています。 (2020年1月16日 16時) (レス) id: c3adc4cd0a (このIDを非表示/違反報告)
ジュン(プロフ) - もう、さすがの一言です。やっぱり面白すぎます！最高です！ (2020年1月16日 1時) (レス) id: 586c2240fb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年1月6日 0時
