〇≠無の証明Ⅳ－１ (ページ40)

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「しかしその頃から。鎌を持った男が夜中の院内をうろつくという目撃情報が多発した」
「……え、鎌……？」
「更に。夜勤の看護師が、しゃがんで泣いてる少年の姿を頻繁に見たのもその頃。声をかけても少年は下を向いたまま動かない」
「……」
「辛抱強く声をかけたら『鎌を持った男の人が怖い、もう足が痛くて逃げられない』って言って、振り返ると鎌の男の影が見える」
「……ひ……」
「悲鳴を上げたら、その瞬間少年の姿と鎌男の姿が消える。その看護師同士の密やかな噂は噂を呼んだ。風評被害のはじまり」

櫻井さんが立ち上がってもう一本ビールを持ってきた。ピッチが早いよ。

「もしかして少年はその鎌の男に殺されたのではないか。それなら犯人は野放しだ。病院でうろついてるのは霊でも嫌だが生身の人間ならもっと嫌だ、と」
「……」
「夜勤の看護師が一気に辞めた、当時から看護師ならいくらでも再就職先があったしね」
「うん」

「病院は看護師不足で、患者も閑古鳥。困った前任の医院長でオーナーの……つまり渡邊院長の先々代、お祖父さんだね、先々代が旧館を取り壊すため、入院患者や通院患者や医師、辞めなかった看護師の受け入れ先として先に急ピッチで新館を作った」
「……」
「そのあとゆっくり旧館を取り壊して、建て直そうとしたんだ、しかしオノマサトシくんのお母さんが噂を聞いて、事件なら調べろと言った、調べてから取り壊せ、と」

「そりゃそうだ」
松本さんが言う。

「尾野さんが地元の名士……建設会社関連の偉い人だそうだ……と深い繋がりがあったことも関係し、取り壊しは一旦中断された」
「……」
「しかし噂も落ち着くと、浮浪者や素行のわるい若者たちが空き家にたむろするのでは、と治安の悪化を懸念する市民が現れる」
「うん」
「また、近くに住む人たちからは、病院の老朽化による危険性、また病院であるのに関わらずの衛生面や外観の悪さの声も上がる」
「うん」
「果てには、お兄様は大臣なのに何もしてくれないじゃないか、という地元の選挙区に出馬する他党の候補が横槍を入れてくる」
「……」
「できたら次の衆院選までに片付けたい、という強い要望があり、俺らをこんな豪華なホテルに泊まらせる程の熱の入れようってこと」

櫻井さんが一旦言葉を切ってビールを飲んだ。

「……つまり、霊がいるなら除霊したい、もし事件性があるなら片付けたい、ということなのかしら？」
私の問に大野さんが口を開いた。