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ワンルームマンションの小さな部屋。
部屋に入ったら、おにいちゃんの匂いがした。
観葉植物が置いてあったり、窓から光が差し込んで来たりしてて、部屋の中は明るい。
「座って。……Aは、カフェオレでいい？」
「ありがとう」
「ん」
しゅんしゅんとお湯の沸く音がして、おにいちゃんが、マグカップを2つ手に持ってテーブルにことん、と置いた。
彼女のものなら嫌だな、と思ってたら100均で買ったみたいな愛想のないもので少しあったかい気持ちになった。
彼女の影は、サッと見た感じはない。
「この観葉植物ね、潤くんが置いていったの」
「へえ……」
「殺風景だからって。で、この本棚は翔ちゃんのお下がり。要らないのくれた」
「ふふ」
「このテーブルは、大野さんがちっちゃいテーブルはヤダ！って言い出してホームセンターで買って置いていって、で、この変なクッションは相葉さん」
「今でも仲良しなんだ、そういうの聞くと嬉しいな」
「相葉さんとは同じ大学だし」
おにいちゃんが、インスタントのカフェオレを淹れてくれて、私にどうぞ、って渡してくれる。
凍えた指先から、じんわりとあったかさが伝わる。
「コート、脱げば？」
「まだ寒い……」
「ファンヒーター……そっち向ける？」
おにいちゃんが、ぴ、って温度を少し上げて私の方に向けてくれた。
「……」
長い沈黙。
おにいちゃんのコーヒーを啜る音が聞こえる。
おにいちゃんがそばにいる。
ただそれだけで嬉しいなんて。
なんて救いのない恋をしてるんだろう。
おにいちゃんは小さく鼻唄を歌ってる。
切ないメロディ。
「あのさ、お父さんの部屋にね、昔のレコードがあって」
「うん」
「リフレインが叫んでる、って曲知ってる？」
「題名は知ってる、どんな曲だっけ」
「どうしてどうして僕達は出会ってしまったんだろう、って歌」
おにいちゃんが、ふぅ、と微笑んで私を見た。
「あのフレーズが耳から離れない」
「そういうこと私もあるよ」
「どんな歌？」
「大抵は、せつない……悲しい歌だよ」
おにいちゃんが、頬杖をついて、私を見てる。
「いっこきいていい？」
「うん」
「おれのこと、好きだった？」
どうして過去形なのかな。
おにいちゃんにとっては、もう過去なんだろうな、きっと。
そっか。
彼女、いるんだった。
ミントグリーンのカーディガン。
白いスカート、綺麗な感じの女の人。
「死ぬほど好きでした……」
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
