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おにいちゃんが、覗き込むみたいに私を見上げて、悲しい目で口を開いた。
「過去形……？」
「……」
ああ、胸が張り裂ける音がした。
両手で顔を覆う。
もう耐えられない。
ううう、って嗚咽が漏れた。
「A……」
「どうやって、忘れたらいいの？」
「……」
「苦しいよ、助けて。私を殺して」
「なにを……」
「このまま妹として生きてくなんて、そんな拷問耐えられない」
両手で覆った手を、おにいちゃんがそっと剥がす。
ボロボロ零れ落ちる涙を、おにいちゃんがシャツでごしごしって、拭った。
「A」
「もう、生きてくのが辛い……おにいちゃんがこれから結婚したり、子供ができたり、そんな幸せを、そばで見守るなんてできない」
「……」
「ごめんなさい……もう、耐えられ」
おにいちゃんが、私の言葉の途中で、力一杯私を抱き寄せた。
「ごめん」
「可哀想だと、思った？」
「……」
「離して。同情は、やめて。……お母さんを亡くして、私まで死んじゃったらお父さんが可哀想だよね、困ったな」
「何言ってんだよA」
「離して？」
おにいちゃんの胸を押し返す。
もう壊れたと思っていた心は、まだ痛い痛いと叫んでる。
「A」
「……帰る」
「ごめん、俺も、もう、耐えらんない」
おにいちゃんが、もう一度私を抱き寄せて、触れれば壊れるくらいの優しさで、私の唇に、そっと唇を重ねた。
今は、兄、じゃなく。
ここだけ、二年前の冬にして。
それなら、きっと。
「二宮、せんぱい」
「……A？」
「今だけ、ここでだけ、二年前だったら、許される？」
「……」
「この二年間、今だけ、無かったことにして」
おにいちゃんがドン、と私を押し倒した。
ちょっとビックリして顔を見上げる。
……泣いてるみたいな、キラキラの瞳。
「せんぱ……」
「しー……この部屋、壁薄いから……」
「……え？」
「声、我慢できる？」
おにいちゃんの手が、私の制服のボタンを器用に外して、するりと私のネクタイを解いた。
もしかして、私、おにいちゃんのものになれるのかな、もしかして。
「……わかんない、けど、多分」
「……初めて？」
涙がつう、ってまた流れた。
おにいちゃんの唇が、涙を拭った。
「確かめて」
「うん」
……おにいちゃんの腕の中で。
今死にたいと、心から思った。
おにいちゃんに引き裂かれる痛みなんか、大したことなかった。
胸の痛みに比べれば、
そんなの全然大したことなかった。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
