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冬休み、お正月に、一日だけ、おにいちゃんが帰ってきた。
「明けましておめでと」
いきなりそう言いながら家に入ってきて、全員をぎょっとさせた。
「あれれ？A太ったんじゃないの？餅ばっか食ってんじゃないよ」
あまりにも普通のおにいちゃんに、声が出ない。
「お父さん、ちょっと部屋行っていい？」
「おお……飯、食ってくか？」
「俺の分ある？」
「ある、けど……来るってわかってたら好きなもの用意したのに」
家族全員が目を泳がせてる。
そりゃそうだ。なんか変。
自然すぎるおにいちゃんが逆に不自然だ。
まったく動けないままだったけど、やっと我に返っておにいちゃんを追いかけた。
「おにいちゃん……」
「んー？あれえ？この変に仕舞ったはずなんだけどな……えっと……」
ごそごそ探し物をしてる。
「おにいちゃん」
「どうしたー？……ほらあった！人生ゲーム」
「……」
「いまんとこ人生ゲームより波乱万丈の人生歩んでますけどね」
「……おにいちゃん」
「だから何よ？聞いてますよ」
目を合わせてくれない。
「久しぶり……」
「学校で会ってるでしょ」
くふふってくすぐったそうに笑ってるおにいちゃん。
そうだ。
おにいちゃんは。
おにいちゃんを演じさせたら、世界一なんだった。
「どうして……」
「ん？帰ってきたらダメだった？」
「そんなわけない」
「なによ、変な顔して。あ、その変な顔、元々だったっけ！ひよこ饅頭ちゃん」
「……」
「潤くんがさ、どうしても人生ゲームやりたいっていいだしてさ。でもね、最近売ってないし、売ってても変わったやつでやたら高いし！」
「……」
「お正月三が日くらいはお勉強休んでも罰あたんないよね、ってかこれ以上罰当たったら俺もう生きてるのが奇跡だよね」
いっぱいしゃべってる。
なのにそれが悲しい。
いいよ。合わせてあげるよ。
それが望みなら、私だってもういいよ。
終わりにしよう。
そうだね、それが一番だって、おにいちゃんはそう思ったんだ。
なら。
「……心配かけやがって！このくそ兄貴！」
「んだとコラア！お兄様に向かってなんだその態度は！」
「誰がお兄様よ！A様に向かって頭が高いよ！私を誰だと心得る」
「んぐふ」
おにいちゃんが変な笑い方をした。
「あ！助さん格さん！こらしめてやりなさい！」
ちょうど様子を見に来たお父さんとお母さんにそう言ったら、お父さんが笑いながら崩れ落ちた。
皆が笑ってる。
私一人が絶望と戦ってる。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
