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おにいちゃんは笑顔で私を絶望の淵に叩き落して、笑顔で去っていった。
それからまた、会えない日々。
新学期になったら、マスクをしてマフラーをして、俯いて歩いてる姿を時々見た。
どこに受験するんだろう。
センター受けるって言ってたけど。
それからは時々、まるで何にもなかったかのように、ふらっと家に帰ってきて、私に軽口をたたいて帰っていく。
太った太ったっていうけど。
おにいちゃん、抱きしめてくれたあの日より、体重何キロ落ちてると思ってるんだろう。
あの日からずっと切れないままの髪は、腰まで届きそうなくらいまで伸びてる。
お団子もポニーテールもやめた。マフラーがないと寒くて耐えられないから、白いマフラーだけぐるぐる巻きにしてる。
二月の中頃、おにいちゃんが大学合格したよ、っておばさんに報告をして、うちに帰ってきて、みんなで合格祝いのささやかなパーティをした。
食べ終えたものを片付けたりお風呂を用意してたら、おにいちゃんがソファに座ってるお父さんの前に正座して座った。
「よろしくお願いします、この恩はいつか必ず返しますから」
「何言ってんだ、……父親として当然のことをしてるだけだから、気にするな」
「いえ……借りたお金は返します」
かたくななおにいちゃんの表情に、全員が息をのんだ。
おにいちゃんは、大学を出たら、息子じゃなくなるつもりかもしれない。
芽生えた恐怖は、消えない。
三月の末、おにいちゃんは一人暮らしをするって言って、大学の近くのワンルームマンションを借りてカオルさんの家からも引っ越した。
「今度、遊びに行っていい？」
うちに寄って一緒にご飯を食べて、部屋に帰ろうと玄関で靴を履いてるおにいちゃんの背中に、思い切って聞いてみた。
「いいけど来る前に連絡してね」
意外とあっさり。
もしかして、頑張ったら、また私のこと、好きになってくれるかもしれない。
一瞬はしゃいだ私に、おにいちゃんが、言葉をつづけた。
「彼女が来てないときならいいよ」
「……彼女……？」
「うん」
それが何？って感じで、振り返って不敵な笑顔を私に見せる。
「彼女、いるの？」
「……お前も彼氏いるでしょ？」
「……吉沢くんのこと？」
「仲良くやってんの？」
いつから勘違いしたままなんだろう。
もしかして、うちの前で鉢合わせしたときかな。
「ね、おにいちゃん」
「ん？」
「私、好きな人がいて」
「また違う人好きになったの？吉沢くんと別れた？」
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
