〇≠無の証明 Ⅰ (ページ17)

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『ニノ、呼ぼうか？』
『けどニノは悪霊を退散するんだぞ？悪霊なら俺だって見えるだろ』

松本さんが戸惑ってる。
『とりあえず……彼女の部屋に行ってみようよ』
『やっぱり全員揃わないと無理か、翔さん呼ぶよ』

松本さんが櫻井さんに電話をかけた。

「あの、Aさんとおっしゃいましたよね」
犀東さんがおずおず、と言った。

「はい」
「恥ずかしいのですけれど、お手洗い……ついてきて頂けませんか？」
「……え？」
「実は男性の方に言うのを憚っていたのですが、トイレなんかにも、たまに声がしたり影が見えたりするんです……」

ごくり。
なるほど、急いで女性の捜査員が欲しかった理由はそれだったのか。

「お風呂や着替え、そういった場面でも視線を感じたりするのですか？」
「……はい」
「ところで、方瀬川さんとはお付き合いされてるんですか？」
「電話で連絡はとっていますけど、私が呪われてるかもしれないと伝えたら、俺のせいだとおっしゃって……今会ってません」

犀東さんが疲れたように言った。

「犀東さんは呪いを信じているの？」
「信じるも何も……誰もいないところで声がする、デート中に人の影を見る、死ねと聞こえたり、死ねと鏡に赤い文字……叫び声を上げて、人が来たら消えている、そんなことが続いて」

執拗な、悪意。

「一先ずお手洗いに行きますか」
「すみません」

トイレに行って注意深く周りを見る。
人の気配は無い。
声も聞こえない。

彼女のヒステリーというか、神経過敏になっているだけで気のせいかもしれない。
鏡に何かが映り込むこともない。
人の悪意も、私には届かない。

彼女が出てきて、申し訳無さそうに言う。
「こういう時にはあまり出てきません」
「つまり？」
「誰かといると鳴りを潜めるのです」

犀東さんが、私が疑われるかもしれない、事件性はないと見捨てられる？
そんな風にビクビクしてる姿を見て、少し微笑んだ。

「大丈夫ですよ、原因がわかるまで離れませんから」
犀東さんはホッとしたように笑った。

「安心しました……東城さんがいてくれて……さすがに男性に、お手洗いまで付き合っていただくのは抵抗が……」
「当然ですよ、私だって松本さんがあの眼力でトイレの前に立ってるの想像したら逆に怖いですよ！」

笑い合って、さっきの席に戻る。
椅子に座ろうとして彼女が、叫び声をあげた。